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『歪なエスカレーター』2023-12-30

 有名芸能人・ダウンタウンの松本人志氏の「性加害」が報じられ、大きな話題となっている。
 告発した女性側とそれを報じた週刊文春の言い分によれば、高級ホテルで性的行為を伴うパーティをし「俺の子供産め」などと発言を伴いつつ、キスしようとしたという。一方、松本氏・吉本興行側はそれを真っ向から否認し法的措置を取ると述べている。
 別に私が内部事情に通じているのでもないわけなので、このへんの周辺事情自体についての真偽判断は控えるが、ネットでもリアルでもかなり判断を慎重にしているようである。
 テレビでも、ダウンタウンと20世紀から一緒に仕事をしてきた今田耕司氏は、合コンなども何度も一緒にしてきた仲で、彼がそうした場でそんな発言をするのを聞いたことがない、と違和感を表明している(もちろん今田氏が松本氏の親しい人物でもある以上、客観的なものとして鵜呑みにするわけにはいかないとしても)。

 いわゆる #MeToo が数々の冤罪事件を生み出しながらも、ようやくこうした「性加害疑惑」に世間で真偽判断を保留する人が多くなってきたことは良いことである。
 一般的に、こうした性被害の「支援者」たちは、特にフェミニズム系の者は特に、被害者の言葉を「疑ってはならない」を是としている。被害者の訴えを信じて寄り添いなさい、と。
 実はこれは前回紹介した、私が追い出されたスペース結の連続講座の第1回でも重要項目としてあからさまに習ったことなのである。従って、訴えが社会に出るまでの間に嘘をシャットダウンするフィルターは存在しない。
 だから社会の側がフィルターをするしかない。
 もともとどんな犯罪でも、人を犯罪者呼ばわりするためには慎重に、証拠を元に判断するべきだ、それは性犯罪も例外であるはずがない――その基本にようやく立ち返る人々が徐々に増えてきたということなのだろう。

 ここではもちろん、その基本に忠実に「実際に松本人志がそんなことをしたのか」については判断を控えたい。
 しかし、あくまで仮定として外的事実としてそういうことがあった場合でも私は疑問に思うのだ。
 その場合であっても、松本人志には「性的同意のない相手に性的行為をする故意」があったかは、極めて疑わしくないだろうか、と。

 なぜなら、(くどいようだが被害者側の訴えが嘘でないとして)松本氏はあくまで「VIP」の立場で高級ホテルの奥に、RPGの大魔王のごとくパーティ参加者を待っている立場であったわけである。
 そこに被害者?を連れて行くまでにどのよう勧誘や説明がなされたのかを細かく知っているわけではないだろう。彼自身はあくまで、参加者は性的なパーティ(それ自体は本来悪事とは呼べない)に参加するのだと合意して来ているものと思っている可能性がある。いや、可能性があるというかVIP側の立場からはそう考える方がむしろ普通であろう。

 だいたい、性的にオープンな乱痴気騒ぎのパーティを開き、合意の元参加している(と、おそらく「加害者」は想定している)相手に、全裸になってキスを迫るとかは、そこまで酷い邪悪なのだろうか。
 
 私自身はそういうことにあまりノリが良くない人間だが、むしろそういう種類のこと――みんながノリノリで大騒ぎしているのに自分はその雰囲気には入れない――がいくらでもある種類の人間だからこそ、やりたい人の自由を侵害すべきではないし、理解できないのにそれらを貶めもしないようには自戒している。私にとって「乱交パーティ」も「ワールドカップでの大熱狂」も自分はいまいち入り込めない大騒ぎという点で大差ない。だから乱交してもいいし、サッカーで大騒ぎしてもいい。
 法的にも合意の限りでさえあれば、乱交しようがどんな変態プレイをしようがかまわないはずだ。
 ここで合意があるかどうかについて齟齬があったのであれば問題だが、今回の件(しつこいがそのパーティがあったとして)について、

・松本氏が参加者には合意があるものと誤信して、
・なおかつそれを覆すアクションを被害者側が取らず、
・その取れなかった理由(粗相があったらこの辺を歩けなくなるなどと言われたと告発者は言っているらしい)について松本氏に責任がなかった(そんな警告をしたのは松本氏ではないし、彼はその場にも居はしなかった)

 のであれば、これは不幸な事故であろう。

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