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(無料記事)『子どもたちのための表現規制入門2(後編)』2024-02-29

 はい。
 今回はこちらのつづきになります。

 若いみなさんにはまだ実感じっかんがないかもしれませんが、女のひとたちの「弱くておとなしい男は、気持ち悪い」と思う気持ちは、ふつう男の子が想像するよりも、ずっとずっと強かったりします。

 みなさんの中にはもしかすると、学校のクラスで席替せきがえのときに、不思議ふしぎ光景こうけいを目にしたことがあるかもしれません。

 それは、おとなしくて地味な、男の子のとなりに席が決まった女の子が、泣き出してしまうという場面ばめんです。
 その男の子がいじめっこで、前からその女の子に意地悪いじわるをしていた……というのなら話はわかるのですが、そうではないのです。男の子のほうは何もしていないのです。いじめっ子よりもむしろ、人をいじめるなんて思いもよらないほどおとなしい男の子、もしかするとクラスでいじめにっているような男の子こそが、そんなふうに女の子に泣かれてしまうのです。
 それは、これまでお話ししてきたように、女の子・女のひとたちの「弱そうな男は気持ち悪い」という気持ちが、男の子・男のひとたちにとってはちょっと信じられないくらい強いからです。
 男の子がおとなしい女の子の隣になっても、それをいやがったり、ましてや泣き出すなんてことは考えられないでしょう。でも、女の子はしばしば、そうするのです。

 そのぐらい、女の子・女のひとというのは、強いものが好きなのです。

 なぜ男の子が女の子のそういう気持ちを理解できないかというと、男のほうでは、おとなしかろうと、弱そうだろうと、別にその子を気持ち悪いなんて思わないからです。
 男の子だって強いものが好きじゃないか!というかもしれません。でも、男の子の「強いものが好き」というのは、ふつう「強くなりたい」というあこがれから来ています。自分ががんばって強くなりたい、というのは、努力どりょくする理由りゆうになる健全けんぜんなきもちです。
 でも、女の子の「強いものが好き」は、じぶんの努力ではなく、強くない(強そうじゃない)他人をきらう理由になってしまうのです。

 さて。
 このお話は、もともと「フェミニスト」についての話でしたね。

 そして、前の回で、アニメやマンガが好きなひとは「オタク」としていじめられていたという話をしました。
 そのために、アニメやマンガがすきな「オタク」たちは、そのころの女の子たちに「弱いもの」と見なされるようになってしまったのです。
 そして、女の子にとって「弱い男の子」=「気持ち悪い男の子」だということで、アニメやマンガそのものが「気持ち悪い」ということに、女の子たちのあいだではなってしまったのです。

 もちろん、これはむかしの話です。
 それを信じていた女の子たちは、もうすでにおばさん、いや、みなさんからするとおばあさんでもおかしくないような年になっています。

 さて。
 人間は、だれでも年をとります。
 年をとるにつれて、かわいい子どもたちは、若くてかっこいい男のひと、若くてきれいな女のひとになります(もちろん、そうじゃないひともいますが)。
 若くてきれいな女のひとというのは、どうしてもみんなにちやほやされます。若くてカッコいい男のひとも、あまりカッコよくない人に比べればそうですが、女のひとほどではありません。
 不公平といえばそうですし、ひとのあつかいを見た目で変えるのは本当はよくないことです。でもある程度は、これはしかたのないことです。

  そして、カッコいい男のひと、きれいな女のひとたちも、もっと年をとると、そのカッコよさ・きれいさがだんだん、失われて、おじさんやおばさんになります。これを書いているぼくも、もうおじさんです。
 もっと時間がたつとおじいちゃん・おばあちゃんになります。

 問題はここからです。
 たいていのおばさんは「わたしも若いころは、今よりきれいだったせいで色々たすけてもらってきたんだから、こんどは若い子のばんよね」と思ってくれます。
 でも、残念ながらそうは思わない人もいます。
 そういう人たちは、「私がチヤホヤされなくなったのは、男たちが若い女ばかりをひいきするから! 男たちが世の中のことを決めているから、私がないがしろにされるのよ!」と、世の中をうらみはじめるおばさんもいるのです。

 そしてそういうおばさんたちが「フェミニスト」になります。
 フェミニストの全部がそういう理由でフェミニストになるわけではありませんが、かなりたくさんそういう人がいるのです。
 そういう人たちは、別に「男の人がえらい」とか「女の人はえらくない」なんて何も言ってない絵や写真でも、単に「若くてきれいな女のひとが出てくる」というだけで、怒り出すのです。
 しかも、おばさんたちは若いころに「アニメやマンガを好きなのは、弱くて気持ち悪い男だ」と思わされてしまっているので、ますますそういう絵がキライでキライでたまらなくなってしまうのです。

 そういう絵が特に「フェミニスト」の人たちから嫌がらせを受けるようになったのは、2015年ぐらいだと言われています。
 そのはじめの頃に嫌がらせを受けたのは、こんな絵でした。

 「碧志摩あおしまメグ」という、三重県みえけん志摩市しましというまちのキャラクターです。

 この絵が嫌がらせをされたのは、いつでしょうか?

 2014年です。
「オタク」がいじめられてしまうようになったきっかけの殺人事件は、前回いったとおり、1989年。
 25年たっています。つまり、小学校にはいるすぐ前の、5歳の女の子なら、30歳。15歳の女の子なら、40歳。

 ね?

「オタクは気持ち悪い、いじめていい、弱いやつらだ」と教えこまれた女の子たちが、ちょうど、おばちゃんになる時代でしょう?

「女性差別」に反対するのが私たちだ、と言っているフェミニストたちが、なぜ、女性差別(つまり「男はえらい、女はえらくない」なんていう考えかた)とは全然関係ない、ただ若くてきれいな女の人が出てくるだけの絵や写真をにくむのか。

 なぜ、それを作った人たちに嫌がらせをするのか。

 そこには、こういうわけがあったのです。


 

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