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 各地方公共団体で制定している「青少年健全育成条例」において、青少年に対する販売・頒布・貸付・閲覧・視聴・聴取をさせることが禁じられている図書類のこと。なお本だけでなく「電磁的記録」として映像作品やゲームなども含んでいる。
「有害図書」の名称で示している条例が多いため総称としてこう呼ばれる。
 1980~90年代にかけて、いわゆる「有害コミック」規制運動の中で各都道府県の条例にこの種の規定が設けられていった。

 実際には「有害図書」に類する図書類の呼び名は各地の条例でまちまちであり、東京都・岩手県などの条例では「不健全図書」、新潟県では「販売制限図書」など名前はまちまちである。青森県のように特に呼び名を設けず「次に掲げる図書」として具体的な条件を書いているだけのところもある。また静岡県では「不健全図書類」と「有害図書類」を分け、有害図書類については他地域と同程度の規定、不健全図書類については努力義務止まりながら別に規定を設けている。
 なお、【長野県】には青少年健全育成条例の類が長らく存在せず、ようやく2016年に「長野県子どもを性被害から守るための条例」が成立したが、これにも有害図書に相当する規定はない。

 有害図書に関する規定の内容は細部は異なるが、おおむね以下のとおり。

 まず有害図書は
1.条例が指定した条件(「卑わいな姿態」等が20ページ以上または全体の5分の1以上、映像では3分以上など)に合致するもの。有害図書である旨を指定の自主規制団体の方式に従って表示しなければならない。いわゆる成年マーク・18禁マークである。
2.それ以外であっても知事が有害図書と指定したもの。
 に分けられ、1を表示図書、2を指定図書といい、指定図書の決定は基本的に毎月ごとに行われる。

 この指定図書には、いわゆる「ガチのエロ本」は当然含まれない。すでに表示図書になっているからである。
 従ってそれ以外の本の中から都道府県の職員が比較的「有害っぽい」本や雑誌を月に数冊程度探してきて指定する、という運用になっている。指定される本の傾向は各都道府県によって異なるが、実録犯罪系の雑誌や、ボーイズラブ漫画、エロ漫画というほどではない青年向けのお色気漫画などが「愛用」される傾向にある。
 特に東京都では近年、指定図書におけるボーイズラブ漫画の割合が圧倒的多数を占めている。


 これにはボーイズラブの愛好者の多数を占める女性読者が「成年向け」のレッテルを嫌うため、相当過激であっても表示図書にならないことが多いことのほか、2019年にコンビニ大手3社が【類似図書】の取り扱いを原則中止としたため、指定する本の新たな「狩り場」としてボーイズラブジャンルが狙い撃ちになっていることが指摘されている。
 東京都の指定図書になるとアマゾンなどのネット販売でも取扱いが停止となるため、影響が大きい。


 有害図書は冒頭に示したように、青少年に販売・頒布・貸付・閲覧・視聴・聴取をさせることが禁じられるが、これは売る側・見せる側の規制であって、見た青少年の側には特に罰則はない。
 その見せる側も、地域によっては図書類等の取扱事業者に限って罰則を設けているものや、事業者以外の者については軽い罰則としているものなどまちまちである。
 罰則の内容はおおむね罰金30万円を上限としている。ただし岐阜県や愛知県のように6月以下の懲役又は50万円以下の罰金と重く罰しているところもある。

 有害図書の運用については、その青少年健全育成という目的に対する効果を検証する調査などは行政側によって特になされておらず、無意味ではないのかと言う批判がある。

 精神科医の福島章は、1992年の著書『マンガと日本人――【”有害”コミック亡国論を斬る】』で、有害図書の条例化が進行中であった(つまり、有害図書制度が存在する地域と存在しない地域が分かれていた)当時の、各都道府県における性非行(強姦およびわいせつ罪)の発生率を調べた。

 その結果、以下のことが判明した。

・性非行発生率が高い(全国平均の1.5倍以上)9都道府県はすべて有害図書の指定制度を持っていた。
・性非行発生率が低い(全国平均の1/2以下)都道府県は規制の厳しい県と緩い県がおよそ半々であった。
・率先して規制を設けた和歌山県の性非行発生率は極めて高い。
・青少年条例そのものが(現在でも有害図書制度は)存在しない長野県で性非行が多いと言う事実はない。
・著しく規制が強化された都道府県で、強化前が強化後より性非行が多かった事実はない。

 以上の事実から、福島氏はこう結論付けている。

 コミックスの類を条例を作ったり改正したりして取り締まらねば性非行が増加するという叫びが、実は何の根拠もなく行われていることが、この数字からもわかるであろう。

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