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人生にスパイスを与える、映画の名言#006 そこには何のウソもない/君がそばにいてくれれば/僕は落ち着くんだ

No word of a lie
When you're around
I subside

そこには何のウソもない
君がそばにいてくれれば
僕は落ち着くんだ

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  ロンドンのイースト・エンド。レイ(ロバート・カーライル)率いる5人の強盗団"フェイス"が、現金保管庫へ押し入ったものの、そこで強奪した金額は予想を遥かに下回る結果に。しかも誰かにそのカネを盗まれてしまう。おかげで仲間の中で疑心暗鬼になっていき、事態は思わぬ展開へと突き進んでいく・・・。

 『トレインスポッティング』(1996)が世界的大ヒットとなった以降の、イギリス映画界の勢いに乗って製作された、ドラマ重視のギャング/強盗映画。故アントニア・バード監督の繊細な人間描写も秀逸で、日本での劇場公開当時、上映館だった恵比寿ガーデンシネマへ足を運んだ際は、主演のカーライルのみならず、脇を固める俳優陣(今では重鎮のレイ・ウィンストンや、イギリスのロック・バンド/ブラー(Blur)のボーカル、デーモン・アルバーンも出演)のカッコよさにシビれた一本だった。単なる強盗映画の枠に収まらず、主人公が共産主義者として弾圧されていた背景も描かれ、イギリス社会の"歪み"を丹念に描写しているのも、魅力の一つと言える。

 本作のサントラも、ほどよく渋い面子が揃った内容となっている。冒頭ではポール・ウェラー(Paul Weller)御大の「Everything Has a Price to Pay」(=全ての物事には代償が伴う)が流れ、展開の不穏さを感じさせる。
さらには全英トップ20に入り込んだロングピッグス(Longpigs)のヒット曲「On and On」が使われる部分では"君を傷つけるつもりはない/だから勘違いしないでくれ/君への愛はずっと続くのだから"という、犯罪者とカタギの間で揺れ動く、主人公とヒロインの関係と歌詞が重なる、見事な選曲として使われてる。

 今回表題として選んだのは、劇中及び本作の予告編にも使われ「何ていい曲なんだ!」と思わせてくれた、モンキー(Monkey)の「Subside」の歌詞。実際はイギリスのシンガーソングライター/アンディ・ポーラック(Andy Pawlak)がバンド名義で発表した楽曲。彼は1988年にアルバム「Shoebox Full Of Secrets」を出した程度で、ヒットしたものの、その後表立った活動をしてなかったが、この曲で小さなカムバックを遂げた。ただし「Subside」以降はまた鳴りを潜め、2010年台後半にいくつかのアルバムを密かに発表。お蔵入りとなっていた幻の2ndアルバム「Low Beat Folk」が日本限定で数年前にCD化され一部で話題になりつつ、この「Subside」を2020年末にデジタルで再リリースする等、本当にひっそりと活動しているのが勿体ないくらい、素晴らしい楽曲を作り続けてる。もっと再評価が進むことを心から望む、才能ある音楽家の一人だと思う。

 90年代中盤以降のイギリス映画ブームの中で製作された一本として、正直目立つ映画とは言えない本作だが、今見てもその時代性を切り取った内容は、面白さを損なっていない。やや泥臭い雰囲気や、中年に差し掛かった男たちのドラマというのが、万人向けではないかもしれないけれど、映画史の片隅で小さく輝く一品として、十分見る価値のある作品だ。

-フェイス(1997年)
監:アントニア・バード
脚:ローナン・ベネット
出演:ロバート・カーライル、レイ・ウィンストン、デーモン・アルバーン、レナ・ヘディ

この記事を書いた人
大石盛寛(字幕翻訳家/通訳)
通称"日本字幕翻訳界のマッド・サイエンティスト"。
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