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2023年12月分400文字読書感想文まとめ

割引あり

X(@HitujiSix)にて400文字の読書感想文をポストしています。
2023年12月分のポストをまとめました。
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受け手のいない祈り「朝比奈秋」

文學界 2023年12月号

題名:受け手のいない祈り
作者:朝比奈秋
掲載誌:文學界 2023年12月号
ツートンカラー

日本では古くから獣の解体に携わる人を差別してきた歴史がある。

獣の解体は社会で必要不可欠な仕事にかかわらず。

医者も同じだろうか。差別されていいはずがない、が、差別されなければならないと思う医者はいるかも知れない。

命は簡単に倫理を歪めるからだ。

命を扱う恐ろしさは人が背負うには重すぎる。

だから命令が必要になる。命令に自分の意思は含まれないからである。

命令する者は、上司や患者、訓言に法律に、神、そんなところだろう。

非命令者は命令に従う。命令がなくなれば、恐ろしさを背負わなくてはならない。

医師は死にたい。一方で、患者は医師を死ぬなと命ずる。

患者の命令に従って死にたいが生きる。

どちらにも幸を見いだせないなら何に祈ればいいのか。

生と死の間、あってはならない空だけが受け入れる。

空だけが死ねとも生きろともいわない。

ロシア文学の教室  連載11回「奈倉有理」

文學界 2023年12月号

題名:ロシア文学の教室  連載11回
作者:奈倉有理
掲載誌:文學界 2023年12月号
読んだことのない本と受けたことのない文学講義

アレクサンドル二世の暗殺から始まる非常事態宣言とアレクサンドル三世による規制の強化。

アレクサンドル三世を知らなくても、この政治の流れを知らない人はいない。

コロナのまん延から始まる非常事態宣言下の日常は忘れられない。

コロナにかかった経験がある。

症状もきつかったが、自宅に閉じ込もった生活が何より辛かった。

青空が恋しくて、恋しくて、心がひしゃげていく。

幸いにも一週間という期限が希望になった。

アレクサンドル三世の非常事態宣言は数年続いた。

文学の講義を受けた試しがない。

まだ土台ができていない学生が、何十年も土台を固めてきた教授に感想を述べる。講義だとしても緊張せずにはいられない。

本が読めていない、なんて恫喝されたら退学したくなる。

ああ、でも理系でもそれは同じか。

かわいないで「加納愛子」

文學界 2023年12月号

題名:かわいないで
作者:加納愛子
掲載誌:文學界 2023年12月号
爆破! 発破!

人間は大切なよくわからない物体を胸のうちに秘めている。

こいつには厄介な性質がある。かまわれ続けるのは嫌。かまわれないのも嫌。まるで、猫である。

題名である「かわいないで」の一言は、その猫をブリーダーそっくりに撫でてくれる。

大切なよくわからない猫的なそれを簡単に爆破してしまう言葉や行動がある。

言葉が見つからないが、相手に悪意があると想像してしまう言葉や行動。

主人公はコレに敏感な人間である。

自分が発するコレに気をつけ、相手から受けるコレにすぐ気がつく。

まったく損な性質を持ってしまっている。

小説を書く上で会話をさせてはいけない、という理論を見かけた。

確かに、会話は先が想像できてしまい、つまらない。

かといって、想像できなさすぎれば、人物たちが虚空に向かって独り言をつぶやき続ける場面が出来上がる。

「かわいないで」は最高の返し文句である。明日使ってみたくなる。

機械仏教史縁記「円城塔」

文學界

題名:機械仏教史縁記
作者:円城塔
掲載誌:文學界
生成AIとネットワーク

ChatGPTの名前を知らない人はわずかだろう。

チャットAIはある質問にたいして同じ答えを返さない。

AIは情報を組み合わせて答えという情報を作り出す。

疑問が生まれる。答えを集めれば元の情報に辿り着けるのか。

ブッダはできると説き、できぬと言う。

情報では表現できぬものがある。思考だ。

ところで、情報に魂を見る美術がある。小説を読み、登場人物が自分に入ってきた、瞬間に魂を感じる。絵でも、音楽でも、この体験をしてきた。

ふと問う。魂が情報では表現できぬものならば、魂は思考だろうか?

魂は思考である。思考が魂を作り上げる。

「Don’t repeat yourself」

このキーワードを同じ自分をくり返すな、と解す。

アプリの更新は欠かさず行え。とアプリに対しては言える。

こうして、更新前のアプリは成仏し、説得力つまり信頼性を失う。

ブッダ・チャット・ボット・オリジナルは保存されたから寂滅した

情熱「桜木紫乃」

すばる 2024年1月号

題名:情熱
作者:桜木紫乃
掲載誌:すばる 2024年1月号
恋物語といえば恋物語だけど恋物語ではない。

湯がふつふつと煮えたぎる。蓋で押さえつけても湯気は逃げ出る。

そういうたぐいの熱が情を含んでいる。

コロナ禍の中、世界から人間と会いたいという情が規制された。親の死に顔を子に見せずに葬られた。

この蓋の下で人々は湧き上がる情を育んだ。解き放たれた情は遠くまで繋げてくれた。

家は人が住まねばすぐに朽ち果てるという。

汚部屋の主が住んだらどうなるだろう、と考えてしまうが置いておく。

人がそこに住むのに必要なものは、やはり情、他人だ。

例えば遊郭外。例えばグリーンモール。

他人がいたから、そこに街ができた。

人間を忘れられるのか。

名前を忘れ、声を忘れ、顔を忘れられた人。それでも縁があったならば、ぼんやりとした像が表れ出る。

人間は忘れられない。しかし、記憶に蓋を被せて知らん顔は作れる。

情が蓋の下は今にも吹き出そうに満ちているだろう。繋がりたい。

高校数学からはじめるディープラーニング「金丸隆志」

ブルーバックス 高校数学からはじめるディープラーニング

題名:高校数学からはじめるディープラーニング
作者:金丸隆志
レーベル:ブルーバックス
AIの裏をチラ見

ディープラーニングでさまざまな判断をコンピューターに任せられるようになった。

その仕組にニューロンが使われていると聞いてはいた。

今回この本を読んで、数学的な礎を見られて楽しかった。

高校数学3Cを学んでいれば読めるし、数式アレルギーさえなければ数学の知識がなくても読めると思う。

本書の中で一番、目が止まったのが局所最適解だ。

例えば、波々のトタンをU字に曲げたとする。そして、ビー玉を上からいくつを落とす。このビー玉を底に送りたいが、波打っているのでそこで居着いてしまう。この居着いてしまうところが局所最適解だ。

局所最適解を解消する方法は情報科学で今も研究されている。

局所最適解を避ける方法の一つにアニーリングがある。

ビー玉を勢いよく投げ込めば、小さな波を乗り越える。

アニーリングはその応用でビー玉のエネルギーを段々と小さくして底に送る方法だ。

本書に出てくるAdamはまさにアニーリングの応用だ。なら次は量子アニーリングが応用されるか期待している。

無害ないきもの「村田沙耶香」

文學界 2024年1月

題名:無害ないきもの
作者:村田沙耶香
掲載誌:文學界 2024年1月
無害と有害の境目

無害でありなさい。言葉では聞かなくても、思想として親、先生、赤の他人から教え込まれた人もいるだろう。

無害であればよいのか? それは違う。

無害はなにもしないであり、誰にも手を伸ばしはしない。

無害はあきらめであり、可能性の花をむざむざ腐らせる。

有害であればいいのか? それは極端すぎる。

この世には無害と有害の外にこそ無数の幸福がある。

だが、幸福に限りが有るなら、無害と有害の境目を作ろう。

無害と有害という言葉を作ることで、それ以外は隠されてしまうから。

LGBTという言葉に消されたトランスジェンダーたちみたいに。

言葉は本質的に暴力を含んでいる。

言葉は世界を分けて生まれる記号だ。そして、人は言葉なしでは語れない。

言葉は存在するモノを語られたモノに押し込める力を持っている。

語られなくなったモノは存在しないモノとして忘れられる。

一方で、言葉がなければ人は語れない。なら、言葉を尽くそう。

正しさが移ろう時代を描く「金原ひとみ 渡辺ペコ」

文學界 2024年1月号

対談名:正しさが移ろう時代を描く
対談者:金原ひとみ 渡辺ペコ
掲載誌:文學界 2024年1月号
正しさのサイン波

正しさが移ろう代表例ははぁちゅうを中心としたセクハラ問題だ。

彼女は電通在籍時のセクハラを告発した。その後、彼女自身も童貞いじりによりセクハラを行っていると指摘された。

当然、セクハラ加害者だから、被害を受けてもいい、訴えるのはおかしい訳がない。セクハラは罰するべきだ。

価値観の変化についていけない人がいる。

おそらく、過去にはセクハラを許していた社会があったのだろう。

そんな社会は間違っていたと現在の人間は言える、しかし、過去の人間はその間違いに気づけるだろうか。

正しさは意識しないと摂取できない。

正しさを掲げ、炎上させ、リンチを楽しむ人間はかならずいる。

正しさの境界に幅がないからだ。

LGBTがそれを周囲に告げるカミングアウトという儀式がある。

正しいだろうか。

正しいとしてしまうとカミングアウトを強要する圧が生まれてしまう。

正しさには曖昧さが必要で、故に移ろうのだろう。

世紀の善人「石田夏穂」

すばる 2024年1月号

題名:世紀の善人
作者:石田夏穂
掲載誌:すばる 2024年1月号
ハラスメント。いじめ。虐待。

絶望しか僕には見えないのに、主人公は善人性で乗り越えていく。

肉牛を飼育する酪農家のように。

主人公は善人だからホモソーシャル共を蔑ろにできない。諦めとは異なる達観。肉牛のように愛するようになる。その愛は、ホモソーシャル共が望む母のようだ。

疑問が浮かぶ。世紀の善人の世界にホモソーシャル共以外の人間はいないのだろうか。

いない。いたとしても、いてもいなくても変わらない害のない何もしない人だろう。なら、いる必要がない。

害のない人が益のある人なら、もっと明るい話になったかもしれない。

ハラスメントの罪状は殺人罪ではない。

人が死んでようやく殺人罪と言えるからだ。

人が死ななければ動けない法になんの意味があるだろう。

頼りがないなら、ハラスメントに適応するしかない。

いじめや虐待も同じ世界にある。

適応して欲しくない。エゴでも助けになりたい。


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