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日本の #セダン離れの理由 について考えてみた


セダン離れの理由はなにか

日産の名車「シーマ」の生産中止はセダン離れが原因?

日産の名車の歴史がまた一つ終わることになりました。シーマが今年2022年の夏に生産終了になるというニュースが飛び込んできました。
日産によれば「搭載されているエンジンが、今年の秋から強化される騒音規制をクリアできないことなどが理由」とのことだけど、「SUV人気でセダン離れ」が進んでいることが原因と報じるメディアもあります。

※ちなみにボディタイプの名称や定義がよくわからない方は、ざっくり下記の図・記事を一読ください。

出典:https://www.jms-car.com/cp/article/newcar.html

本当にセダン離れが起きている?

引用元:https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/1392858.html

たしかに2022年の新車販売台数を見ると、SUVやミニバン、ハッチバックが圧倒的
その中でセダンが「あるとすれば」セダン以外のボディタイプを全部ひっくるめた「カローラ」シリーズの一部にセダンが入っていると「思われる」程度。
※参考までに(今でもセダンが併売されている)先代のカローラではセダンとワゴンの比率は4:6
一方で外国メーカー車モデル別新車登録台数順位の推移をみると(ワゴンとセダンの合算と思われるものの)BMW3や5、ベンツのCやE、アウディのA4などがランキング上位に食い込んでおり、国産車とはやや傾向が異なることがわかります。

一方で、1990年の登録車年間販売台数みると、逆に5ナンバーセダンが圧倒的です。

1位:トヨタ「カローラ(30万8台)」
2位:トヨタ「マークII(22万4868台)」
3位:トヨタ「クラウン(20万5259台)」
4位:トヨタ「カリーナ(17万5805台)
5位:トヨタ「コロナ(17万2410台)」

出典:https://kuruma-news.jp/post/229941

この販売台数の中にはワゴンタイプも含んでる可能性はありますが、ワゴンブーム前なのでほとんどがセダンと考えるのが自然でしょう。
しかもクラウンの一部グレードを除けば、すべて小型車=5ナンバーサイズだったといえるのが現代と大きく異なりますね。

なぜ日本人はかつてセダンを買っていたのか

 セダンは座席と荷室が分かれているため室内が静かで、車高が低く走行性能も高めやすい。欧州の高級車メーカーはセダンを基本形とするところが多かった。

出典:https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220331-OYT1T50250/

とあるように、セダンには「静粛性」「高い走行性能」があり、それによって格式高さやフォーマルさといったイメージにもつながっていたように思います。
いまだにタクシーやショーファードリブン(要人用の運転手付き高級車)はセダンのイメージが強いですよね。

また、独立したトランクがあるので外から荷物が見えず、また石などで簡単に割れるガラスと違って簡単に開けられないため、防犯上もメリットがあるでしょう。治安の悪い地域では未だにセダンが人気であることや、現代の日本でもパトカーは主にセダンを使っていることからもわかりますね。

とはいえ、かつて日本では「ファミリーカー=セダン」といえるほどセダンが売れていたのは、どちらかというとセダンそのものの魅力や特徴よりも「他の選択肢がなかった」のが原因ではないかと個人的に思います。

日本人がセダンを買わざるを得なかった理由①:選択肢のなさ

出典:https://www.nichiei-carmax.co.jp/date/flyermuseum/1987

かつて日本人≒サラリーマンのお父さんがファミリーカーを買うとき、セダン以外の選択肢がほぼなかった、という時代がかつてありました。
現代でいうミニバン・ワゴンは商用車ベースで(積載性以外の)性能や質感が低く、軽自動車やコンパクトカーは「若者向け」「安かろう悪かろう」なものばかり、SUVは本格的すぎる4輪駆動車ばかりで、乗用というより「業務用」「軍用」といえるものでした。
結局のところ、普通のサラリーマンが選べる車種が「セダン」しかなかった、という時代が60年代中旬から80年代まで続きました。

この状況が少しずつ変わります。

まず1982年に三菱パジェロが登場し、さらに90年代にトヨタ・RAV4が出てきたことで「見た目重視で乗る4WDっぽい見た目のファミリーカー」という選択肢=クロスオーバーSUVの存在が確立しました。
同じく90年代にスバル・レガシィや、前輪駆動のミニバン=ホンダ・オデッセイやステップワゴンが登場。ワゴン車から商用車のイメージが払拭され、爆発的にヒットしました。

出典:https://minkara.carview.co.jp/userid/274777/car/432338/4031056/1/photo.aspx#title

90年代後半には軽自動車の規格が新しくなり、ファミリーカーとして十分成立する軽モデルが多数現れ、さらに人も荷物もたくさん詰める名作コンパクトカー:マツダ・デミオやホンダ・フィットが販売され、極めつけとしてハイブリッドカーのプリウスが登場します。

こういった高い走行性能、積載性、ファッション性、経済性などを兼ね備えたライバルの登場により、相対的にセダンの必要性・優位性が下がったことがセダン離れの原因の一つ、と考えるのが自然かと思います。

荷室の大きさや使い勝手を優先し、従来はファミリー層やアウトドア向けとされてきたミニバンやSUVでも高級化が進み、セダンと人気が入れ替わるようになった。ある自動車大手の幹部は「セダンは世界的に売れなくなっている」と話す。

出典:https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220331-OYT1T50250/

日本人がセダンを買わざるを得なかった理由②:世間体

かつて普通の日本人=サラリーマンのお父さんは、会社や町内会などの「世間体」の中で、会社の役職に応じた厳格なヒエラルキーから「セダン」を選ばなければならなかった、という時代がありました。

私の若い頃は、新入社員はカローラ、主任クラスでコロナ、課長でマークⅡ、部長になったらクラウンといったコースがありました。

出典:https://finance.yahoo.co.jp/card-loan/experts/questions/q12153275417

こんな感じで、独身&学生時代の軽自動車・コンパクトカーから卒業し、サラリーマンになって結婚したらカローラ、出世に応じてステップアップし「いつかはクラウン」を目指していく、というのがサラリーマンに課せられた「呪縛」でした。
この呪縛からハズレた人…たとえば役職に見合わない車格の車に乗ってしまうと、会社のゴルフコンペや親戚があつまる冠婚葬祭で「生意気」とみられるか「うだつの上がらない落ちこぼれ」とみられてしまうわけです。
逆にセダン以外の選択肢を選ぶと「変人」「サラリーマン以外の特殊な仕事の人」という白い目で見られてしまうわけです。

出典:http://blog.livedoor.jp/cangee/archives/30047419.html

ところが前述のように、バブル期の前後からセダン以外の選択肢が一気に増殖します。とくにレジャーブームにより「スキーに行くから」「キャンプに行くから」と(当時はRVと呼んでた)SUVやミニバンが爆発的な人気になります。

今思えば「レジャーに使うから」というのは口実に過ぎず、セダンという呪縛、ひいては世間からのヒエラルキーから脱出することそのものがユーザーの求める体験だったのかもしれません。

もう一つ、日本人をセダンの呪縛から解き放ったのが「プリウス」でした。
「レジャー」という口実の次に使われた口実が「エコ」「節約」だった、ということです。
今でこそ老若男女問わずクラスレス・ジェンダーレスに使えるもの…たとえば服であればユニクロ、時計であればAppleWatchといったものが一般的ですが、20年ほど前の日本ではなかなか一般的ではなく、特にクルマにおいてはとても考えにくいものでした。

中流階級のサラリーマン御用達の、いわゆる「オヤジセダン」の代表であるコロナプレミオのCMを見てもらえればわかるのですが、免許を取って間もない息子が父親の「オヤジセダン」を借りるというのはかつてとても滑稽なものでした。自分のクルマを持っていない、ということが友人や恋人にすぐバレてしまうわけですね。

ところが、プリウスは違います。中年のサラリーマンであるお父さんが会社のゴルフや冠婚葬祭に言っても恥をかかず、大学生の息子がデートに使っても不釣り合いでないので恥ずかしくなく、家計にうるさいお母さんも満足する燃費の良さもありながら町内会で恥をかかず、女子高生の娘を学校に迎えに行っても(仮に同級生の親がベンツだとしても)恥をかかない。

仮にベンツに乗ってる弁護士が、同じ町内会や息子や娘の同級生の父親にいても「ママが燃費とかエコにうるさいんだ」「娘がディカプリオのファンなんだ」の一言で片付いてしまうわけです。

レジャーブームによるSUVやミニバンという新しい選択肢の確立、そしてエコや節約意識の高まりによるハイブリッドカーの一般化。これによって日本人≒サラリーマンのお父さんは完全にセダンの呪縛から解き放たれたのが現代の日本と言えるでしょう。

そもそも、セダンの良さとはなにか。

2022年現在、設計・デザイン・生産技術などが進化してあらゆるクルマの走行性・静粛性・質感が大幅に向上しています。
そしてもはやプリウスに限らず、SUVやミニバンにハイブリッド(やクリーンディーゼル)が普及し、エコではないクルマを買うほうが珍しいと言える時代になっています。

日産GT-Rの生みの親として知られるエンジニア・ジャーナリストである水野和敏さんが、ミニバンや軽SUVであっても(良い出来の車種であれば)高く評価していることからも、もはや車格に関係なく「ユーザーにとって良いクルマ」が自由に選べる時代になっていると思います。

つまり「ミニバンだから」「軽だから」「SUVだから」燃費や走りや質感が大幅にセダンに劣ってしまう、という時代は完全に終わったということです。

そんな時代において、セダンを求めるユーザーがほしいと思う「要素」とはなんでしょうか。自分は「品格」と「美しさ」だと思います。

セダンの魅力①:品格

セダンには「静粛性」「高い走行性能」があり、それによって格式高さやフォーマルさといったイメージにもつながっていたように思います。
いまだにタクシーやショーファードリブン(要人用の運転手付き高級車)はセダンのイメージが強い

と前述しました。しかしながら現代では、高級車=セダンという図式は当てはまらなくなりつつあります。

イギリス女王をはじめ、世界中のセレブリティが愛車としてレンジローバーやベンツGクラスといったSUVを選ぶことも現代では一般的です。
また政治家が使うハイヤーや、芸能事務所・キャバ嬢の送迎用車もアルファードなどの高級ミニバンであることが増えているように思います。居住性や隠匿性、もしくは「庶民派アピール」にも有効なのでしょうか。

またタクシー=セダンというのも変わりつつあります。アメリカのNYタクシーでは日産の商用バンが、日本ではJPN TAXIというミニバンタイプの車種が普及しつつあります。
よく考えれば、タクシーの本場の一つであるロンドンタクシーは100年近い歴史の中で一度もセダンを採用したことがなく、現代で言うミニバン的な背の高い・突出したトランクのないボディを採用し続けていますね。

ついでに言えば、世界のパトカーを見ると「セダン」に限定している国ばかりではなく、欧州ではステーションワゴンやハッチバック、SUVといった車種も広く選ばれています。

それでもなお、セダンには絶対的な品位や権威があるように思います。
今でも天皇陛下の御料車も、アメリカの大統領専用車も未だにセダンであることからもわかります。
実用性を加味すると、SUVやミニバンに置き換わりつつある現代の高級車のあり方の中にあっても「どうしてもセダンでなくてはいけない」シチュエーションがあることは変わらないのかもしれません。

セダンの魅力②:美しさ

結局、セダンの魅力は品位といいつつ、セレブはSUV選んでるし、タクシーもパトカーもセダンばっかりじゃない。
そんな中で、セダンが持つ確実かつ圧倒的な魅力は、その美しさなのではないかと思います。

2021年で世界でもっとも美しいクルマとして選ばれたのは「アウディeトロン GT」という4ドアセダンでした。

かつて美しいクルマといえば地を這うような車高の低い2ドアクーペというイメージが主流だったかと思います。現代ではそこに実用性も加えつつ、セダンとクーペが融合した「背の低い4ドアスポーツセダン」≒「4ドアクーペ的なセダン」が人気になっているように思います。

デザインの美しさが高く評価されている世界の高級自動車ブランドが、フェラーリなど一部を除けば必ずセダンをラインナップしていることがそれを裏付けているように感じます。
というよりも、現代では大衆車メーカーのつくる大衆セダンであっても「4ドアクーペ」的要素をもった「美しい流麗なフォルムのスポーティーなセダン」を作らざるを得なくなっている、と言えるかもしれません。

トヨタがランナップするセダン。もはや小型車=5ナンバー枠の車種は存在しない。
※特殊用途向けに残してある、旧型のカローラアクシオのみ5ナンバー

そんな中で、急速に数を減らしているのが5ナンバー=小型車枠のセダンです。車体のサイズ、特に車体幅が1700mm以下でなければいけない5ナンバーセダンは、室内空間と美しい流麗なフォルムを両立することが困難になってしまいます。

広い室内空間をもつ5ナンバーセダンの例:日産ティーダラティオ

どうしても限られた車幅の中で室内空間を確保する場合は、相対的に背が高めのプロポーションになってしまい、スポーティーさや流麗なフォルムとはほど遠い「ユーモラスでかわいらしい」印象になってしまいます。
個人的にはこういうかわいいセダンは好みですが、現在のセダンニーズからはかけ離れてしまいます。

一方で1988年以前のカリーナEDやマークⅡのような「5ナンバーサイズだけども車高を低くして流麗なフォルムをもつ美しいセダン」は居住性をかなり割り切ったものでした。

ちなみに1988年までは小型車の自動車税は年間2万4000円、サイズが少しでもはみ出した車は年間9万円程度と大幅に税金が増えるため「小型車=5ナンバー」であることは庶民の自家用車には必須とも言える条件でした。
89年以降は税制が変わり、重量や排気量によって課税額が決まるようになりました。つまり小型車枠のサイズにこだわる理由は、よほど駐車場が狭いか、普段使う道が狭いことくらいしか無いといえます。

そもそも「どうしても5ナンバーサイズでなければ生活に困る!」という人は、走行性能も質感も安全性も格段に進化した軽自動車やハッチバック、小型SUVを選べば済むわけです。
それに、小型車枠にこだわらない3ナンバーサイズのほうが、ハンドルの切れ角が大きい(ハンドルを回したときの前輪の曲がる最大の角度が大きい)ので、小回りがきくというケースも多々あります。

なお5ナンバーサイズのセダンが減ったからセダン離れが起きている」という意見がたまにありますが、これは「5ナンバーセダン信者」による完全にナンセンスな思い込みだと思います。
つい最近まで販売されていたホンダ・グレイスや日産・ラティオがなぜ廃止になったのか?今販売されているカローラアクシオが売れているのか?などを考えれば明白だと思います。

まとめ:「セダン離れ」って嘆く必要があるの?

これまでの話をまとめると

ということです。
現代では品格や美しさを求める「本当にセダンが欲しい人」がきちんとセダンを買っていて、そういうニーズに対してきちんとセダンがいまでも豊富にラインナップされている時代だと思います。
前述のように、日本においては品格(≒ブランドイメージ)や美しさが求められがちな輸入車の販売台数をみるとしっかりとセダンが売れている理由でもあると思います。

逆に言えば、品格(≒ブランドイメージ)や美しさを訴求できないメーカーのセダンは売れるわけがないということです。最初の疑問「日産の名車「シーマ」の生産中止はセダン離れが原因?」の答えはコレだと思います。
せっかくシーマを買えるだけのお金を持ってる人が、ベンツやBMWやレクサスやアウディでもなく、わざわざシーマを買う理由(ひいては日産のセダンを買う理由)が存在しないのです。

昭和~平成初期のように「とりあえず国民みんながセダンを買っておく」時代が終わった、という意味では「セダン離れ」と言えるかもしれません。
それでもなお、本当にセダンを必要としている人、セダンを愛している人のために魅力的なセダンがきちんとランナップされ、一定の販売台数がある現在は、決してセダンにとって冬の時代ではなく、かえって以前よりもセダンにとって幸福な時代と言えるのではないか。
それを別に「セダン離れ」と嘆く必要はないのでは?と個人的に思っています。

次回はそんな幸福な時代に(新車は買わないけど)メーカーに物を申すマニアについてまとめてみようかと思います。
最後までご覧いただきありがとうございました☺


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