意味深なようで意味深でない男友達の話
10年以上前から、深く語り合うでもない、連絡すらめったに取らない、けどなんとなく1年に一度、3時間くらいひたすら一緒にビリヤードするだけの男友達がひとりだけいる。
2011年に八王子が計画停電されたとき、身体を動かしたら暖かくなるかもねってんで、ベッドの上で挿入しようとしたら急にお腹を押さえだし、後日聞いたら尿道に石が入ってたみたいな、そんな男。
今まで出会った男性の中で一番の美男。キンプリの岸さんに似てるような気がしたけど、なにせ1年に一度しか会わないもんだからよく思い出せない。SNSも知らないし、LINEのアイコンも鳥の絵だから(そうしてキンプリの岸さんの顔も忘れていくのでしょうね)。
会いたいと連絡が来たのは、彼の誕生日だった。夫とまだ付き合う前の話。
今日が自らの誕生日であることをおくびにも出さず、まだ静岡で暮らしてるのか、いつ東京に来るのか、俺は彼女と別れたんだ、来るときは連絡してと。そんなこと言うの初めてじゃん。自分の誕生日にひとりきりで寂しくなっちゃうのかわいいじゃん。ていうか私のこと好きじゃん!
だから私は、おめでとうを言わないでおくことにした。
それから2ヶ月経って、上京するついでに彼に連絡をしたんだ。最後に彼とビリヤードをしたのは1年半前だった。
13時すぎに新宿のニューマンに行ってふたりでパスタを食べ、駅の反対側までふたりで歩いてビリヤード。久しぶりに男の人とふたりきりの空間を過ごす。自分目線で面倒で、ドローン目線で幸せな、大変よろしい時間だった。
2ヶ月前から私はコツコツと彼への想いを培養し、当日はビリヤードに到底不向きなタイトなひざ下スカートを履いてきてしまっていた。
彼氏できた?
ビリヤード台のフチに置いてある青いメルティキッスみたいなやつをキューに押し当てながら、彼が問う。
いやできてませんよ。
私は敬語で、年上だから一応。
結構長くない?
そうなの、5年くらい。◯◯さんは?
できたよ。2ヶ月前
え?うそ。え…………………ああ!いいんですか?別の女と一緒にビリヤードしてて。
いいよ、ちゃんと彼女に聞いてから来てるから。
あっ、へー。
そう、こうして私はまたこっぴどく振られたんだった。
こっぴどいよね、こっぴどいよ!
「なんだー、私今日◯◯さんに告白しようと思ってたのに」という種まき用の企てワードまでも失笑で抑圧されてしまう。なんなら「もし俺に彼女がいなかったらまじで今日から付き合えるのか」とちょっと説教食らった。
10年来の友人だけどさ。たとえ会えなくたって同じ空で繋がってる、その人の存在を思うだけで胸を張れる的な固い友情を結んだ覚えはないわけ。
彼女に心地よくない思いをさせてまで会いたい相手じゃないはずなのよ、私って。
「彼氏できたら俺とはもう会わない?」
18時前、京王線の改札が見えて、彼が問う。
さっきの説教の仕返しに私は、はい、と言い切る。
なんだよ俺は会ったのに、と笑って彼は言うので、いいえ会いません、と笑わずに答えてから、また連絡します、と笑って言って、別れた。
っていう3年前の話を思い出した。
私、結婚したんだよ。
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