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ウェディングジャーナル連載_Vol 2  利益率改革

※本記事は、2023年にウェディングジャーナルにて連載した記事です。

連載テーマ:ブライダル業界に於ける
「次なる改革」


利益構造改革

本コラムの第2回は"改革に必要な利益を創出"する=「利益構造改革」を
テーマとします。

もともとコロナ禍以前より「ブライダル業界は、少子化による
マーケットのシュリンクが進み、緩やかに厳しくなっていく」と、
業界内だけではなく金融機関などでも数年間言われ続けてきました。
しかし、実態としては多くの企業では「大きな改革が為されてこなかった」のが真実だったと思います。そしてコロナ禍により、いずれ行わないとならなかった改革の波が一気に押し寄せて来た状況下で、大きな変革の準備をしてこなかった企業が多く、同時に私にも多くの相談が寄せられています。いざ大きな改革に迫られても、言い方を選ばず言うと未だ「出血(コスト)を止める」以外の策を講じられていない企業も多いように感じます。利益構造改革が必要と思っている企業は多いと思いますので、実例を交えながら綴ります。

■利益構造改革のフレーム

まず、利益構造改革を、どのようなフレーム(思考)で取り組んだのか?を
紹介します。

「利益構造の可視化」
利益構造改革を実践するうえでまずは、実態を見る必要があります。PLを見ながら上から下に、そして課目ごとに数値を奥そして横に広げながら次々と重要な数値を連ねていくイメージで可視化していきます。例えば広告宣伝費は、総額からスタートして、どのような構成になっているか?その間口(種別)は?来館率・成約率は?などKPIがアメーバのように連なっていくイメージです。PLの全ての項目の立体的に可視化することで「現状」はほぼ正しく見えてきて、ある程度アタリを立てられます。ただし、特に大型ホテルで多いのですが、部門が入り乱れており実態の算出が困難だったり、システムの関係で正しくコスト算出が出来ないこともあります。それでも現状の可視化は、後々改革のプランニングに於いても重要になります。

「ゴール設定」
数字が可視化された後は、先にゴールを決めてしまいます。現状の数値の延長線上ありきで設計を進めると、その時点で成果は創造の範囲を超えず、限定的なものになります。そこで、設計する際は意図的にゴール設定から行います。列席人数がコロナ禍以前より減少する前提であっても、営業利益額●●円、営業利益率を●●%。売上総利益額●●円、●●%・成約コストを●万円下げる・販管費全体を●●下げるなど、先に設定をします。

「アクション設定」
ゴールが定めた後に、実施候補のアクションを一覧化します。そして、効果と実現可能性を数値化して、「効果の大小」と「実現可能性の大小」の観点からアクションを選別します。よく見られるのですが「考え得るアクションを全部やってみよう」というのは、気合・根性論としては良さそうですが、結果として無駄打ちが多くなりやがて、未達成/未実施の事項が増え、改革の意欲も削がれるので弊社では推奨しません。

■アクションの事例集

実際に実行したアクションを全て挙げると相当なボリュームになる為、ココからは、インパクトがあり実現可能性が高い一部のアクションを抜粋してご紹介します。

①   新規セールスのディスカウントマネジメント・受注時売上総利益管理
多くの企業で「受注時ディスカウントのルール化」は導入されています。実践上の所感ですが、それよりも更に有効だと感じたのは「チームで取り組ませること」です。すごく単純なようで、実は実施している企業の方が少ないのですが「月間の受注売上に対してのディスカウント金額・比率」を数値化して、チームとして追っていくことで、個人ではなくチームの力学と創意工夫が生まれて、自然と下がっていきます。個人ごとのルールに依存すると「逆にそのディスカウントまでは使ってよい」という免罪符になっていることをよく見ます。また、エースプランナー程、難しい条件でアサインされることが多いので、実感としては「チームで追う」というのが、最も効果的であると感じています。コロナ禍以前のように、大きな値引きをした分、施行での受注でリカバリーできるというのは、あくまでも列席人数が多いことが前提となります。また、負けが込んでくる企業ほど、ディスカウントが多くなっている傾向も否定できません。
同時に、受注時の売上総利益を把握しておくことも重要になってきます。システム上、売上以外リアルタイムに把握するコトは難しいという企業の方が多いですが、そのほとんどが、単純に仕組みがないというだけです。健全な利益こそが、健全な組織や安定したクオリティを担保する上で重要であることもしっかりと組織に浸透していくと、ディスカウントと共に列席人数や、売上総利益の管理に組織が目を向けるようになります。実際に、コロナ禍から、この施策をスタートした企業に於いて、同じ人数帯でも一組辺り、数十万円単位で売上総利益が変わっているという企業も数社実例として挙がっています。

②   商品開発
コロナ禍になってから、かつて多かった料理メニュー開発だけではなく、パートナー企業と連携して商品管理を行うというコトが増えました。例えば装花・コーディネートを扱う企業と、商品ラインナップだけではなく、仕入れや花材選定、制作工程、営業フローまで協業して再設計をすることで、会場への歩率(マージン)は下がるものの、結果として、クオリティも、そして装花店の利益額向上、人件費削減も実現して、まさに「三方良し」の構図が出来上がりました。これまで、アイテムの受注・単価アップのアクションを実施したとしても、利益改善を念頭に於いた協業が行われることが異常に少ないと感じていました。また、コロナ禍に拠るコスト圧縮施策によって、明らかにクオリティを下げて提供している企業も見受けられます。今こそ、単価・受注のアップセルという次元ではなく、会場側とパートナー企業と連携して行う商品開発は必須だと考えています。

③   「人件費(雇用形態の多様化・生産性)の再設計」
「全員が正社員」という以前主流だった組織が形成しづらくなっていますが、そもそも他産業では、随分と前から進んでいました。「クオリティを追求」と言えば聞こえはいいですが、一方で「あるべき論」が先行していたために、多様な働き方を置き去りにしてきたとも言えます。業務の再設計・最適化・合理化については前号で記載していますが、働き方とともに、問合せ対応窓口の集約や、WEB招待状、引出物の配送などに拠り、人件費に関する構造改革には大きく変化します。システムを中心としたDX化はもちろんのコト、業務そのものの設計から見直せば、顧客満足・利益も進化させながら、結果人件費は下がるというゴールは得られます。(実際に、改革の結果を述べるのであれば「得られました」)。

④   成約コストの再設計
なんとなく、ボリュームの多い「媒体」が目の敵にされがちですが、決して媒体が悪なのではなく、企業側が最適なコスト配分をどのようなに戦略的に描くかでしかありません。私が携わった企業の中で、国内でも随一のマーケティング改革が進行していると感じる大型ホテルがあります。そのホテルでは、コロナ前と比較して、広告宣伝費は約40% 減少しているものの、成約数はコロナ禍以前の実績を上回り続けています。このホテル実践した施策は、媒体効果の最大化(撮影や掲出する内容の変更)、SNSも含めた自社メディア集客の設計、ホテル機能を活かした関係者紹介制度、知名度を生かした広域エリア集客と、決して奇をてらった施策は有りませんでした。敢えて強調しておきたいのは、このホテルでの成功要因として重要だったのは、企業として一枚岩となっているコトでした。経営、マーケティングとセールスが一体となり同じゴールを正しく目指し改善し続けたコト。全員のゴールが最終的には一緒だったコトが間違いなく成功要因でした。素晴らしい画(戦略)を描ける人は結構多いですが、それを組織として改善をしながら適切に運用し続ける組織は、とても少ないです。

文中にも記載しましたが、外部環境に拠らず、健全な利益が得られないと、健全な組織が描けず、パフォーマンスを発揮できません。これまでの打ち手では、太刀打ちできない状況である今、少しでも皆様の参考になれば幸いです。

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