マガジンのカバー画像

創作テキストまとめ

41
ものがたりのテキスト記事などまとめ。
運営しているクリエイター

#はじまりのキス_終わりのキス

あとがき。

 この度は「はじまりのキス、終わりのキス」をお読み頂きましてありがとうございます。  初めから読んでくださっている方、途中から読み始めて1から読み直して下さる方、途中の一話を読んでスキを下さる方。大事なお時間を頂いて読んで貰えてありがたいなあと、スキにとても励まされました。毎回「投稿する」ボタンをクリックする指が緊張で震えておりましたので。  私の主な活動はイラストと漫画ですが、鍛錬のためにと書いているテキストにサポートを頂くこともあります。身の引き締まる思いです。時には

はじまりのキス、終わりのキス(6)

恋の話です。六回に分けて投稿します。読めるところまででも読んで頂けたら嬉しいです。一つの記事につき1500〜1800文字です。最終話だけ1900文字を越えてしまいました。後ほど別記事であとがきを投稿します。 (前のページ) (初めから読む)  床の上のスマートフォンが早く起きろと急かすように震えていた。  寝転がったまま繰り寄せると昨夜と同じ発信元だった。うんざりしながら着信を拒否する。不意にドアの向こうから男の声がした。 「ご立腹なのはわかりましたから、少し話を聞いて貰

はじまりのキス、終わりのキス(5)

恋の話です。六回に分けて投稿します。一つの記事につき1500〜1800文字です。 読めるところまででも読んで頂けたら嬉しいです。 (前のページ) (初めから読む)  部屋の中は夜が明け方とともに音を吸い取っていったみたいに静かだった。  しんと冴えた朝の空気が薫る煙のように緩やかに漂って、一夜の終わりを仄めかす。私はそろりと起き出して身支度を整えた。玄関ドアの前に立つと背中越しに彼の気配がした。もう一度抱き寄せてキスをするような甘い兆しは微塵もない。 「僕の連絡先は消して

はじまりのキス、終わりのキス(4)

恋の話です。六回に分けて投稿します。一つの記事につき1500〜1800文字です。 読めるところまででも読んで頂けたら嬉しいです。 (前のページ) (初めから読む)  目を醒ましたまま、うたかたの夢を見るようだった。  ついばむような口づけを重ねるうちに吐息はやがて熱を帯びて、唇で深く繋がっていく。その先にあるものを幾度か想像したことがある。彼の細長くてきれいな指が私に触れる度に、劣情で胸が疼いた。  事が済めばすぐに背中を向けてしまう無粋な男だとばかり思っていたけれど、ま

はじまりのキス、終わりのキス(3)

恋の話です。六回に分けて投稿します。一つの記事につき1500〜1800文字です。 読めるところまででも読んで頂けたら嬉しいです。 (前のページ) (初めから読む)  冬に向けて日が短くなり始めていた。  彼との関係は相変わらず宙ぶらりんだった。暇だから遊びましょうと私が話を振ると、やはり気乗りしない様子で応じた。   彼は言葉の端々に、ここから先は立ち入り禁止ですと透明な規制線を張っていた。煙草の煙はすり抜けるのに私にとってはガラスよりも強固だ。気が進まないなら断ればいい

はじまりのキス、終わりのキス(2)

恋の話です。六回に分けて投稿します。一つの記事につき1500〜1800文字です。 読めるところまででも読んで頂けたら嬉しいです。 (前のページ)  彼が本社に転属して直属の上下関係がなくなって、月に数回、あるいは季節をひとつまたいだ頃に思い出したように私からメールを送る、ゆるいつながりになった。  ある冬。週末に兼ねてから楽しみにしていた映画が封切られ、友人と二人で観に行こうと嬉々としてチケットを取った。出掛ける段になって風邪で具合が悪いとメールが入って、くれぐれもお大事

はじまりのキス、終わりのキス(1)

恋の話です。六回に分けて投稿します。 一つの記事につき1500〜1800文字です。 物語の前半部分が軽く、後半部分が重たいです。読めるところまででも読んで頂けたら嬉しいです。タイトルは候補から一番気恥ずかしいものを選びました。  酔うと抱きつく癖がある。  紅一点の酒の席では存分に飲みたがる心の手綱を引き絞って、嗜む程度に留めたが、同性がひとりでも居ようものならしめたとばかりに隣に陣取って心ゆくまで飲んだ。  ある夏。太陽に容赦なく焼かれたアスファルトの熱が夜になっても冷め