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何気なく、歌を歌っていたところ

小学校や中学校の、音楽の時間が好きでした。

鉄琴や木琴や太鼓を用いた合奏の時間は、楽器が奏でる様々な質感の音に包まれる感覚が心地良く、また、合唱曲をパートごとに分かれて全員でハーモニーを響かせて歌う時間は、音楽と詞が体の中を駆け巡って心に問いかけたり、雨や風や日差しみたいに歌を全身に浴びる感覚が好きでした。
実家に住んでいた頃は、家に誰もいない休日の晴れた昼下がりに、「野生の馬」や「みんなひとつの生命だから」を、部屋を歩き回りながら伸び伸びと歌っていました。多分、隣家の人は、また歌ってんな、と思っていたことでしょう。

今でも、たまに合唱曲を口ずさみます。先日も洗濯物を干しながら、音楽の時間に習った曲を何気なく、記憶にある通りにそのまま歌っていました。曲の前半は、こちらへ訴えかけてくる緊張感を含んだ出だしで、後半に向けていざゆかんと開放されていく気持ちの良い曲なのですが、口ずさんでいると、不意に、あれ?っと違和感を覚えました。

あれ、この歌の歌詞、いままで意味を深く考えたことがなかったけど、よく考えたら重いな。

急に驚いたと言うか、我に返ったみたいになりました。心温まるいい旋律だなぁとほっこりしながら聞いていたら失恋ソングだった、みたいなやつです。旋律が好きで、今まで何度も口ずさんできた歌なのですが、歌の世界観や舞台を意識したことがなかったなと、その時始めて気付きました。

ここからは歌詞を引用していきます。最後に引用元を記載します。

まず、歌い出しで、「友よ」と呼びかけてきます。この、一言で友になにか大事なことを伝えようとしている、と思わせる場面から始まるところが、私はすごく気に入っています。このあと即座に別パートで「ラララララ」と重ねてきます。そこがきれいに響いて、さらにドラマチックでよいのです。次に「僕らの世界は」と、続きます。それで僕らの世界はどうなっているかというと、「闇に閉ざされて」いるのです。この時点で、えっ、随分重たいフレーズが入ってきたなと驚くんですけど、さらに、「汚れているけれど」と畳み掛けてきます。

友と僕のいる世界、超絶荒廃している……

出だしから世界が黒く沈んでいる。多分土壌も水も汚染されていて、空気も汚れて、人の心も未来へ目を向ける気力や希望を失って、荒んでいる。正しく優しく清廉であろうとすることが難しい世界が広がっている。

けれど、

僕は言うのです。「飛び立てあの白鳥のように」と。

白鳥が羽ばたく姿の気高さと、美しさ。その白い翼は汚れた世界の中にあってひときわ際立ちます。その白鳥のように翔び立てと、「宇宙にあるあの星目指して」と、歌い上げていくのです。

そこでまた私は、あれ?と思うのです。僕らは今どこにいるのか、という疑問がむくむくと湧いてきます。あの星を目指す。となると、僕と友は、僕らの荒廃した世界から飛び立って、僕らの星をあとにして別天地へ移住するイメージがフワッと頭の中に広がります。

戸惑っていると、その次の歌詞は、「僕等の星は素晴らしい地球 命みなぎる地を」と続きます。

もしや僕らがいるのは地球ではなく、例えば遠い昔に地球から別の星へ移民し、再び母なる地球に戻ろうとしているようにも読み取れる。それとも、「飛び立て」というのは比喩で、僕らは宇宙に美しく光るあの星のように、この闇に閉ざされた地球を命輝く地にしてゆこう、という解釈でいいのだろうか。

謎が深まってしまったので、夫の前でも歌って見せて、「この歌、どう思う?」と聞いたところ、

「それ、バルタン星人視点の歌だったら、侵略だよね」

と言い出した。また謎が深まる。

「我々の星は汚れてもう住めなくなったので、あの地球という星へ飛び立って、我々の星にしてしまおう、という感じで」

「えぇ……」

いや、多分、立ちふさがる困難に打ち勝ち、前途を希望で満たして進みゆく歌なので、バルタン星人視点ではない、筈です。

2番の歌詞は、歌声を響かせたり、自然の力を呼び覚ませたり、心の絆を信じたりしているので、闇に閉ざされた世界を共に輝かせてゆく歌なのだと思います。

歌詞と旋律が描き出す世界とそこに込められたメッセージをあれやこれやと想像しながら、歌い出しの歌詞のインパクトは重要だなとしみじみ噛みしめています。この歌には初っ端から、どうしたの世界……と、心を掴まれたというか、軽くうろたえました。

そういえば、友達が随分前に、いくつかお気に入りの曲を教えてくれたことがあって、その際に、「この歌のここの歌詞がすごくて」と、詞をひとつずつ分解して、展開や情景描写の素晴らしさをとうとうと語って聞かせてくれました。あれは歌の中に織り込まれた物語を紐解くとても楽しい時間だったので、また話して聞かせてくれる機会があると嬉しいなぁと思いつつ、この文章を閉じます。


歌詞の引用は以下のリンクからさせていただきました。
曲名 自由なる大地へ 
作詞 坂本 秀樹
作曲 位田 努


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