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一進一退の攻防の末掴んだ勝利 〜J2リーグ第10節 モンテディオ山形 vs レノファ山口FC 振り返り〜

J2リーグ第10節 モンテディオ山形vsレノファ山口FCの試合は0-1でレノファ山口FCの勝利となりました。今回はその試合の振り返りです。

この試合のプレビューはこちらです。


山形に守備のスイッチを入れさせなかったビルドアップ

プレビューのnoteの中で,山形の守備で注意したい部分として,前線からのプレスを挙げさせてもらいました。この点は,山口の霜田監督も警戒していたようです。プレビューのコメントでも言及していましたし,DAZNの中継内でも触れられていました。

山形の前線からのプレスのスイッチを入れる役割を担っている重要な選手の1人が,坂元だと思っています。彼がいる山形の右サイドからの守備はストロングになっています。

山形の右サイドと山口の左サイドの攻防がこの試合のポイントになったと思います。そして,このサイドで山形がやりたいことを,山口がうまく出させなかったことが,山口の勝利をもたらした部分もあると思います。

その攻防を振り返ってみたいと思います。

プレビューでも触れた通り,坂元は1人で相手の左SBと左CBの2人を見ることができる選手です。実際,新潟戦でも相手の左SBにアプローチをかけて,SBからCBにパスが出たところにそのままプレスをかけてボールを奪うシーンもありました。

ただ,この試合ではこの形をそう多く出すことができなかったように見えました。それが出たのは,前半9分のシーンぐらいだったかなと思います。(少し形が異なりますが,前半42分も出せたシーンの1つかもしれません。)

前線からのプレスではめていくことが難しくなった要因の1つは,「山口の左CBのドストンと左SBの川井の距離が遠かった」事です。山口のビルドアップになると,川井は,坂元と右WBの三鬼の間にポジションを取ることが多かったように見えました。

これによって,坂元は自分より後ろにいる川井を意識せざるを得なくなり,前への圧力が弱まります。そして,川井のポジショニングによって必然的にドストンとの距離ができるため,坂元が川井を意識して下がると,坂元もドストンとの距離ができてしまって,なかなかドストンにアプローチをかけられないという状況になっていました。

DAZN中継のハーフタイムに出る平均ポジションを見てもらえると,ドストンの近くに味方が寄っていないことが読み取れると思います。

山口は,ポジショニングによって,坂元の足を止め守備のスイッチを入れさせないことに成功しました。

ただ,試合の中で技術的なミスなどによってドストンに坂元がプレスをかけるシーンも出てきます。その場合には,ドストンは無理に繋ごうとせず,前線にロングボールを送っていました。

一方で,ドストンに相手の1トップである阪野がアプローチに来る場合は,簡単には蹴らず繋ごうとしていたと思います。なぜなら,阪野がドストンのところまでアプローチに来るということは,逆サイドに数的優位ができているからです。

ですから,阪野のプレスを受けると山口は三幸やGKの山田にボールを預けて,そこから逆サイドに展開して運んでいくプレーやドストンから直接逆サイドに飛ばすプレーを選択していました(前半18分30秒ぐらいのシーンとか)。

それから,山形に守備のスイッチを入れさせないように何回か見られた形が,もう1つありました。そのカギを握っていた選手が,佐藤健太郎でした。佐藤は,ビルドアップ時に,度々ドストンと川井の間にポジションを取っていました。このポジションを取ることによって,坂元が見るべき選手が増え,一瞬出足が遅れることもあったと思います。と同時に,川井を一時的にフリーにしたり,真ん中のスペースを空けて三幸をプレーさせやすくしたりなどの効果を生んだのではないかと思います。

試合後の監督のコメントを読むと,佐藤は守備を考えて起用されたようですが,攻撃の面でもこのように大きな期待を持って送り出されたのではないかと思います。そして,その期待に応える素晴らしいプレーを見せてくれました。

山形が思ったようにプレスをかけていけなかったことは,この試合の大きなポイントの1つだったように感じます。



アップダウンの少ない試合をモノにできたということ

山口も山形も互いに,攻撃をする回数と攻撃を受ける回数が多く,ボールを奪って奪われてという展開が多いチームであるとプレビューで書きました。

そういった中での山形の強さは,立ち上がりにリスクを回避してロングボールで自陣から敵陣に抜け出しながら,敵陣から強烈なプレスをかけてボールを奪いショートカウンターを発動,相手がそれを警戒してディフェンスラインが上がりきらないうちに,山形の後ろの選手に蹴らせないように前線の選手がプレスをかけてきたら,ライン間を使い,細かいパスをつないで,ゴールを目指すことができる点です。

しかし,この試合の山形は,先ほども書いた通り前線からのプレスが思ったようにかけられず,リズムをつかんでいくことが難しくなりました。ですから,後ろからボールを運んでというシーンも多く作れなかったのだと思います。

一方で,山口の方も,前線からプレスをかけてカウンターのシーンを作り出せず,常に前向きに矢印を向けていくプレーが出せませんでした。山口の試合でよく見るカウンターの打ち合いのようなオープンな展開にはなっていませんでした。

つまり,互いに我慢の展開が,特に前半は続いていたということになります。これまでの試合のスタッツに現れているような,ボールを効果的に奪って奪われての展開になっていませんでした。

後半になると,立ち上がり10分〜15分は山形がロングボールのセカンドを拾ったり,山口が奪って前に出て行こうとするところをミスしたりしたことでやや押し込む展開となりました。このことによって次第に山口もミスが出なければカウンターを打てるようになり,お互いに少しづつチャンスを迎えるようになりました。

ただ,両GKの安定したセービングなどもあり,このまま0-0で終わってもおかしくないような展開でもありました。試合が終盤になるにつれて,勝ちたい気持ちとバランスを崩したくない気持ちとが出てくるような難しい試合でした。

私は,山口としては,このままのペースで試合を続けていくことが重要だと思っていました。今のままで進むと0-0で終わるかもしれないけれど,これまでのやり方で山形は苦しんでいたと思うので,山口側から下手に試合のバランスを崩す必要はないだろうと見ていました。なぜなら,下手にバランスを崩すと,勝つ可能性も出てきますが,負ける可能性も高くなってしまうからです。好調の山形とのアウェイ戦ですから勝ち点1でも悪くなかったと思います。

今シーズンのこれまでの山口の試合を踏まえると,こういった展開でバランスを自ら崩してしまうようなイメージを持ってしまっていました。

例えば,試合終盤に1点リードしているのに,無理にカウンターに行こうとして縦パスを狙い,それを引っ掛けられ,カウンター返しをされて追いつかれてしまった試合がそうです。

しかし,この試合の山口は,試合終盤になっても同じペースで戦っていました。もっと言えば,90分間を通じてやるべきことをやり続けられた試合でした。その結果,82分にカウンターからゴールを奪うことができ,1-0で逃げ切ることができたのだと思います。

どちらに転んでもおかしくない,また引き分けでもおかしくなかった試合を我慢して戦い続けた結果,勝ち点3を獲得できた,そんな試合だったと思います。一見,山口らしくないアップダウンの少ない試合だったと思いますが,全てうまくいっていない試合だったわけではありません。これまでの9試合で出てきた課題や反省を生かしたことで勝利を掴むことができたのです。

このように,チームは着実に前に進んでいます。なかなか結果が伴わなかった8試合でしたが,この2試合は結果もついてきました。そして,この試合ではアップダウンの少ない試合を我慢することで勝利を掴むという新たな成功体験を積むことができました。この経験もまた次に生きてくるでしょう。そうやってチームが大きくなっていくところを追いかけ続けていきたいと思います。


最後になりますが,この試合は緊張感のある攻防が続く,とても見ごたえのある試合でした。次の金沢戦もそういった展開になるかもしれません。しかし,ホームでやれるわけですから,気持ちの良い勝利もまた期待したいと思います。


*文中敬称略
*データは全てFootball LAB(http://www.football-lab.jp/ryuk/preview/?year=2019&month=03&date=30)のものを参照しています。


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