夢 -0923

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 教室にはまだほとんどのひとが残って、軽やかに話し込んでいる。通り過ぎた一団から低い笑い声が上がって、いっぱいの顔の中から私は、そばかすのある男の子ひとりしか見つけることができない。

 欠席した**君の家へ行くために校庭を抜ける。背の低い女の子がいつもの優しい笑顔で、私の手を引こうとついてくる。
 私たちは**君の家へたどり着く。**君の両親に親切に迎え入れられて、私は尋ねる。**君はどこへ行ってしまったのですか。
 あの子は部屋にいます、と**君のお母さんは言って、私たちは階段を上る。閉まった扉の向こうで、誰かの話し声がする。
 扉を開くと、暗い部屋の奥で、小さなモニターにビデオが流されている。その前に人影が、腰掛けて時々頷くように動いている。

 誰かが明かりをつけて、部屋の中がすっかり見える。
 モニターに映っているのは幼いころの私たちで、思い出すまで忘れていたことも忘れていたような人たちがいて、真ん中ではそばかすのある男の子が、アザミの茎のような声で笑っている。
 人影だと思ったのは電気スタンドのような湾曲したアームで、先端に取り付けられた鉛筆が、時々不規則に何かを書いている。
 机の上には他に便箋数枚の手紙があって、**君の両親はこれは遺書だと言うのだけれど、あまりに仰々しい書き方なので女の子が横から、ちょっとこれじゃあ馬鹿みたいだねと優しく言う。
 **君は何かに会いに行ったのだと私は知っている、と私は思う。**君は出掛けていった。でももう帰ってこない。
 私は自分が、**君の名前を忘れてしまったのだと突然思い出す。
 繰り返し見た夢の気配が、視界の外にかすかにそよいでいる。

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