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レジェンドたちの献身(9月23日フロンターレ対横浜FC戦<2>)

「フロンターレの強力攻撃陣に対するに当たって、横浜FCは縦深陣をもって当たった。」というと『銀河英雄伝説』風になってしまうが、そんなに外した比喩でもない。横浜FCは、マイボールになっても最終ラインを押し上げることなく、深い守備陣形の中でゆっくりとボールを回して自軍ポゼッションの時間を増やそうとした。結局ボールを奪われなければ点を取られることはない。そう考えれば、合理的な選択といえる。

前回の分析はこちら。

横浜FCの縦深陣

例えば前半9分、キーパーからのボール回し。

まずはキーパーがボールを抑えた時、両サイドバックが思い切り下がり、ほぼキーパーの横のポジショニングを取る。

ダミアンもプレッシャーをかけてきているし、前の方に安全なパスコースがない横浜FCのキーパーは、右側にいるサイドバックに真横にパスを出してボールを預ける。このとき、サイドバックはほぼゴールラインまで下がってきている。

その上で、サイドラインギリギリに開いている右サイドバックにパスを出し、ボールをサイドに逃がす。そうすれば、万一ボールを奪取されても、準備不足のままカウンターを受けることはない。

レジェンドたちの献身的な守備

ただそれだけではゲームプランとはいえない。ビルドアップしてからボールを奪われることもあるし、そもそも最終ラインを深く設定していたらフロンターレが押し込んでくるからだ。

そのとき、横浜FCを支えたのは、レジェンドたちの献身的な守備だった。

試合中、まず気づいたのはカズだった。やっぱりカズを写真に収めたいから、ファインダーで探すのはどこにカズがいるか。「キング・カズ」のイメージはゴール前だから、ゴール前を探してみると、いない。けっこう、ウイング的なポジションにいることが多かった。

これがフロンターレボールになるとよりはっきりする。意識して撮り始めたのはウォーターブレイクの後なのだが、これはまず前半24分。

フロンターレが右サイドからビルドアップしているのに対し、開いたポジションでジェジエウへのパスコースを抑えている。

次に前半31分。これも右サイドのビルドアップに対し、ジェジエウへのパスコースを抑えようとしている。

これは前半34分。フロンターレのコーナーキックからの流れだが、やはりカズがセンターバックへのパスコースを切っている。

こういう仕事なら、瞬間的なスピードは必要ない。むしろ経験と読み。カズを使ったことにはこういう意味があったのか!と気づいた。

献身的なプレーはカズだけではない。

松井大輔も攻守に動き回った。松井大輔と言えば、自分の世代はやはり南アフリカワールドカップでの左ウイングとしての献身的な活躍を思い出す。そのときのプレーを何の違和感もなく思い出せるような松井大輔の動きだった。

これはペナルティエリア内、田中碧に対するタックル

タックルを成功させた後、何食わぬ顔で立ち上がってボールを追っていく松井大輔にしびれる。(まるでラグビーの稲垣啓太を思い出させるほどのポーカーフェイスだ(笑))

連続写真はこちら。

中村俊輔VS三笘薫

そして何より印象に残ったのは、中村俊輔だった。

中村俊輔は攻撃時にはハーフスペースに入ってくるが、守備時は右のサイドハーフ。つまりマッチアップするのは齋藤学であり、登里享平であり、また、三笘薫だった。つまり、どれも破壊力抜群のドリブラー。

中村俊輔と言えば、若い頃はディフェンスの弱さが大きなウィークポイントだった。ドイツワールドカップのあたりではそれがネックになっていたし、3試合目のブラジル戦では、せっかく先制したのに奪われた同点ゴールは、中村俊輔のディフェンスが甘かったのがきっかけだった。

ところが海外経験を踏まえ、年輪を重ねた今、中村俊輔は素晴らしいディフェンスを見せてくれた。

まず元マリノス同士の齋藤学とのマッチアップ。

上手くコースを切ってセンタリングを阻止した。

フルバージョンの連続写真はこちら。2人とも見事なプレーぶりだった。

さらに後半登場した三笘薫に対するディフェンス。

最初のマッチアップではコースを切って、後ろの登里享平へのパスを促した。

二回目のマッチアップでは、左サイドをえぐり、ペナルティエリアに侵入せんとする三笘に対する見事なディフェンスを見せた。

記憶にある限り、少なくとも等々力で、このエリアで抜きにかかった三笘が1人も抜けずにノーファールで止められたのはこれが初めてだ。

間を取ってタメを作ってから、瞬時にボール奪取を試みたのは見事だった。ぜひ、フルの連続写真を見てほしい。

そして3回目のマッチアップでは、三笘は抜きにかかることなく、早めにクロスを上げる。

フロンターレが大量点を取るときには、大概三笘が絡む。この試合、横浜FCが大量点を奪われなかったのは、こうやって中村俊輔が三笘を抑えたのが大きい。このマッチアップの経験を活かして、三笘にはもっと素晴らしい選手になってほしいと思う。

こうした横浜FCのゲームプランに対して、フロンターレが無策だったわけではない。きっちりと対応して、得点を奪っていった。(続く)