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ハハ85歳のおひとり日記       初めての別府。初めての湯治。

ハハ85歳。
箱入り娘で世間知らずで82歳まで生きてきた。
お嬢様育ち、ではない。
お嬢様はハハの母で、家のことを何もできないまま母になり、
母業を長女であるハハに託した。
ハハの母はハハをずっとそばに置き、
世間を知らないまま、父に嫁いでしまう。

その父が3年前に他界。ハハ82歳にして、
生まれて初めて、一人暮らしになった。

ハハは、同世代と比べると、体の機能に痛みがなく、健康で頭もクリア。
しかし、生まれて初めての一人暮らしの寂しさに、鬱になりかけ、
そのまま認知症に突入するかのように思われた。

ここでボケられては困る事情が、ハハの子ら(わたしと兄)にはあり、
なんとか鬱にならないよう、手当をしてきた。

例えば、毎日電話して話をさせる。
ペットロボットのラボットを飼う。
民生委員やケアマネージャーさんとの接点をつくる。
東京に呼び寄せて短期間同居する。
一緒に旅行する。

など。
そのおかげで、たまに気落ちするときがあるものの、
1人暮らしに慣れてきた。

さて、一人暮らし3年目を迎えたハハ。
NHKのドキュメンタリー「72時間」で別府鉄輪温泉の貸間を知った。
ハハの友人が、ココに行きたい!と連絡をよこし、一緒に行こう!と
誘われたという。

別府 “貸間”の人生物語 - ドキュメント72時間 - NHK

ちょうどその番組をこちらも見ていたので、
ハハから、あんた、NHKでやっていた温泉のアレ、わかるん?
と聞かれ、すぐ調べてやったら、電話してみる!と言う。

ハハは父が亡くなるまで、自分で動く、ということをしてこなかった。
必要なものがあれば、父に言い、
困ったことがあれば、父に言い、
その都度、父が動いていた。

父は家のことを何もしなかったけど、
外との交渉や段取りは全て父がやっていた。
ハハは82歳まで、父に言うことで、全てが解決されてきた人生である。

知らないところに電話をするっていうのは、
85歳の母にはハードルが高そうだ。
誘ってきた友人にやってもらってもいいんじゃないか、と思うが、
あの子はそういうのはしない。とのこと。

しばらくすると、
「愛想のないところやったわ~~」と報告してきた。
ハハにしてみれば、テレビでの放送直後だったので、
予約が混んでいるんじゃないか、と思い、
いつごろなら予約が取れるのか、が知りたかったらしい。
しかし、貸間に長逗留できるというのは年配者だし、
別府まで行ける元気な年配者はさほどいないらしく、
「いつ来るのか決めて連絡してください」
とつっけんどんだったと言う。

そりゃーさー、
旅館みたいなサービス業のところじゃないんだからさ、
ほんとに来るんだか、来ないんだかわからない人には
愛想よくはせんやろ。忙しいやろうし。

そうお?そうなん?
と聞いてくるので、
まあ、あっさりした性格の人とちゃうか?
ええやん。べたべたしてこんで。

そやなあ。

と納得したようだった。

3月頭は兄嫁の一周忌やし、3月下旬は八十八か所巡りやし、その合間に
行くことにした。と連絡があった。
お母さんは忙しいんやで。と自慢げに言う。

今年はうるう年なので、八十八か所巡りを88番から1番へ逆まわりすると恩恵が三倍なんだそうだ。これまた初めての八十八か所巡りにチャレンジ中だった。あなたが最高齢とちゃう?と聞くと、もっと年寄りがおった!とのたまった。

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今年は初めてのことだらけなのだが、
その一つが今回の湯治である。
初めて行く土地、別府鉄輪温泉。
そこに1週間滞在する、というのも初めてである。

ハハは生まれ育った土地と、嫁いできた土地と、少しばかり働きに出た大阪の土地(大阪は寒かったからすぐ戻っちゃった。と言うが、ほんとは寂しかったんだと思う)しか知らない。

別府という土地が、町なのか?田舎なのか?も分からない。
たぶん、彼女の想像では、
今、住んでいるところよりも田舎で、
観光するべきところもない。

と思っていたに違いない。

なぜなら、当初の考えでは、3日ほどの予定だったからである。
それに、石鹸と食材を持っていかねば、と心配していた。

それを聞いて、短かすぎん?それは湯治にならんやん。
1週間くらいおらんと、湯治って言わんで。

え~~1週間もおらないかんの?
そんなにおれるやろか?暇なんちゃう?

家でおっても暇やんか。
同じ暇やったら、違う土地でおったほうが、新鮮味があるんちゃう?
近くには温泉がいくつもあるし、
食材もこっちとは違うし。
温泉の湯で蒸し料理ができるし。
湯治に来ている人たちと交流あるかもしれんし。
とにかく、あっちはここよりも町やで。

そうやな。と納得した。とにかく素直なんである。この人は。

町内の同年代で、
ハハと同じペースで動ける人がいないのだ。
ご夫婦揃っている人は、だいたい、ご主人が病気がちで
老々介護の真っ最中。

自由のある人は体が不自由。
体がきく人は時間が不自由。

うちの町内に限れば、うちのハハほど、
自由な人はいないんである。

しかし、自由は孤独なんである。

そんなこんなで、昨日、別府へと旅立った。
さっそく、お友達と2stの写真が送られてきたけど、
画角いっぱいに二人の全身が写ってるものだから、
いったいどこなのかがわからない。

でもまあ、ばあさん二人旅、楽しそうである。

お友達はハハよりも少し年下だけど、健康状態と頭の切れ具合はハハと
同じらしい。住まいも離れているのが、付き合いの距離感として気持ちいいそうだ。

歩くペースと食べるペースが同じっていう友だちって
大事やな。と思う。それに金銭感覚が似ていると最強だ。

そしてまた写真が送られてきた。
卵と野菜と魚介類が大皿に並んでいる。
地獄蒸しという、温泉の湯気で蒸し料理ができる調理場があり、
そこで蒸したのだそう。

ハハの手料理、海鮮の地獄蒸し!食器類や調理具、調味料は貸してくれる。

今日は海鮮料理!
とキャプションがついていた。

温泉入って、買い物行って、料理して、
ご飯食べて、また温泉入ったら、1日終わった。とのこと。

ええこっちゃ。

大分県別府市鉄輪温泉
過ごし方 Archive - 鉄輪温泉公式サイト | KANNAWAONSEN | 大分 別府 鉄輪温泉

ハハが宿泊している貸間 双葉荘
ようこそ 別府鉄輪温泉 双葉荘へ 貸間旅館 (owl.ne.jp)

ハハのところからの別府までの行き方
岡山→(のぞみ)→小倉
小倉→(特急ソニック)→別府
別府駅前→(バス・大分交通 鉄輪温泉行)→鉄輪温泉 下車 (25分)

10時48分に岡山を出て、14時28分に別府着。
15時のバスにのって、15時25分に鉄輪温泉に到着。

今年のゴールデンウィークに、どっか行こうな!とハハから言われてるんですが、こんなハハをどこに連れていけばいいんでしょうか・・・







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