Vol.44 SNSの恐怖

Aug. 2013

 齢45にもなりますとね、謙虚さたるや是いかに?なんてつい考えてしまうわけでしてね。

 この連載が始まったばかりの頃、にわかにツイッターが世に知られる存在になってきた時分だったと記憶している。
あのときはやれ140文字がどうしたとか、ツイッターとiPhoneは異様に親和性が高いとか、もうミクシー要らねとか、まあたくさんの期待と憶測が飛び交っていまして、IT業界は当然ツイッターに色めき立ち、世界最高のツイッター・クライアントを開発するとか、「ツイッターをビジネス活用する」ようなテーマを引っ下げ全国を講演行脚するような猛者も登場したものです。

「もうWEBの時代は終わりました」てな開口一番をぬかしながら、つぶやきの極意なんぞを中小企業の社長に解いて歩いていた人は今、どこへ行ってしまったのでしょう。
どうでもいいことですね。

 そんなツイッターがいつの間にか全履歴ダウンロード可になっていたので、今回は自分の呟史を辿る旅に出てみようと思う。
 最初のツイートは2009年の3月17日の呟き。

「お仕事中」

 まさに呟きだし、ほぼ独り言、使い方としては正しいと思う。
しかしそこから丸4カ月、私は一言も発していない。
たぶん仕事が恐ろしく忙しかったのと妻の出産準備が重なって、慣れないSNSどころではなかったのだろう。

 しばらく経った7月31日、久々のツイートは

「ついに明日、パパになれる!」

これはもう呟きレベルではなく、エクスクラメーション・マークまで付けているので、呟きを通り越し「叫んでいる」といってもよいとは思うが、いったい私は誰に報告していたのでしょうか? 誰か教えてください。
そんな7月は全部で19ツイートだった。

 8月に入ると、どうやら解散総選挙が間近に迫っていた時期で、暗黒時代の幕開けを憂うように私は民主党への警戒をツイートし、月末には大好物の東京・三鷹「江ぐち」にラーメンを食べに行ったようだった。
日常生活のどうでもいい部分でさえパブリックにするようになった8月は、全12ツイートの仕上がりだった。

 翌9月は3ツイートと極少で、内容も「ジョブズがカラテカの矢部に見えた」とか実にくだらないものばかり。さらに年末に差しかかると、いきなり食い物の話題がブームになり、ツイート数も急増。50以上をコンスタントに吐きだし始め、これはまるで市川海老蔵のブログ並みの更新頻度だが、この頃からフォロワーの数が増えてきたようで、読んでいる誰かが反応し始めるとフォローされてる側としてはスケベ根性が出てまいります。
ツイート内容や言葉使いに若干の変化が現れ始めた頃である。

 そして年明けの2010年1月、ついにビッグバンが起こった。
ツイート数は440件。前月比850%というイケイケのITベンチャーのような伸びを見せ、ざっと一日平均14ツイートも吐きだしていた。
内容は会話形式のものが大半で、ソーシャル感がグッと増してきたように見受けられる。

 そこから数カ月間、ほぼ同じ内容で横ばい状態が続き、読み返してみると、それはもう不毛などうでもいい内容が繰り広げられていたが、震災を機にさらにそれは加速し、多い月で667ツイート、平均22ツイート/日。
私の睡眠時間が平均4時間なので、最低1時間に1度はツイッターやっていた計算になる。

 ところが、グラフを見ると10月を境にグッと減少傾向を見せ始める。
内容はほぼ他のソーシャルメディアと連携したものからの自動ツイートだけというまるでスパムボットのような状態。
なぜか? 理由はフェイスブックを本格的に使い始めたからであります。

 ご存じのようにフェイスブックはツイッターに比べれてリッチなメディア仕様になっているため、自ずと情報量は増え、当然、書くにも読むにも時間を要し、おまけにメッセンジャー機能を仕事で使う人々が増え、四六時中あちこちから連絡が入るようになってしまい、ソーシャルメディアがすでに電話の機能とキャパを越えた連絡手段になったんだなと本気で体感したのは、この頃ですかね。

 地方に住みながら東京や他の都市との仕事をしている者にとって、フェイスブックは便利このうえない手段である一方、仕事が途中で遮られる機会も圧倒的に増え、便利なんだか邪魔臭いんだかよくわからないまま今日も使っている。

 ソーシャルメディアはまだ歴史が浅く、十分な検証もされないまま世に放たれた、ある意味いい加減なモノ。
これが本当に人と人のコミュニケーションを豊かにする手段なのか、私にはまだわからない。

 もしかしたら十年後は精神障害になっているかもしれないし、政治家の不用意な発言がトリガーとなって世界大戦を引き起こすかもしれない。
もちろん平和的に人々が繋がって、よりよい社会が築き上げられることが、もっともラブ&ピースなのはいうまでもないが、無条件に受け入れてしまっている自分に気がつくと、ふと恐ろしくなることさえある。

 話が長くなりました。要するに、SNSなんかにかまっているヒマがあったら、さっさと仕事を終わらせて家に帰って子どもと遊んでいたほうがまったく幸せなのですが、「便利だからFBやってみ」と勧めた妻から「帰りに牛乳買ってきて」というメッセージが送られてきたりする以上、私だけがやーめたっというわけにもいかず、そんな人の日常をがっちり固めてしまうシリコンバレーで成功するヤツの破壊力は凄いんだな、と感心しきりです。

 おかげさまで私の仕事効率は下がり、もしかしたらSNSは世界中の生産性を下げることが目的の、

ITテロなのではないか?

と疑いつつ、今回も原稿の〆切に遅れました。

スマン。


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