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脳と感情をつなげる神経回路

毎日の生活の中で、うれしいことや悲しいこと、怒りを覚えるなどの感情は、脳の中でどのように記憶されているのでしょうか?

その中でも、不快感はどのように記憶を形成するか、そしてその不快な記憶は脳の中でどのように抑えられているかについて、『つながる脳科学 「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線』に基づいて学びます。

神経 回路 は、 脳 を 構成 する 細胞( ニューロン や グリア細胞)が、情報を処理するために接続された集団と考えてください。つまり脳は、部分的に特化した神経回路によって構成されている、ということもできます。

つながる脳科学 「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線
(ブルーバックス) (p.221). 講談社. Kindle 版.

それぞれの回路が特定の機能を発揮することによって、私たちは、いま存在しているこの世界を感じ、行動している、というわけです。

電気ショックのような物理的な痛みは、皮膚にある刺激を専門的に受取る細胞を刺激し、脊髄のニューロン(神経細胞)を介して多くの脳領域に伝達するというシステムが身体内にある。

感情の動きである「情動」は神経系や免疫系、内分泌系のさまざまな身体のシステムが統合的に働いた結果としての生理反応なのです。

本来、感覚刺激は、とくに情動に影響しない中立的なものなのだが、恐怖条件付けによる恐怖学習が完成すると感覚刺激を与えられるだけで、すくんでしまうフリージングや逃避といった、嫌悪的な行動や反応を示すようになる。

それでも、恐怖学習で身につけた「感覚刺激に対する嫌悪的反応」を抑える消去学習を行えば、嫌悪的な行動を示すことはなくなる。言葉通りの「消去」ではなくて、恐怖記憶を抑えるために、別の記憶を作るだけのことです。

【私見:野球でいえば、大リーガーとなった藤浪選手や、現役ドラフトで移籍した阪神の大竹選手、中日の細川選手のように、環境が変われば、目覚ましく活躍しているのは、消去学習をした結果であるということだろうか。】

これまでの研究によると、恐怖記憶を形成するには、扁桃体という脳部位が重要であることが分かったようです。

一方、消去学習には、前頭前皮質という脳部位が関わっている。一般に前頭前皮質は、認知や理性、意欲など、高次機能の生成に関わっていると言われている。

消去学習が成立するには、前頭 前 皮質 と 扁桃 体 の 関係 が 重要 そう だ という こと で、 私 たち は、 恐怖 学習 を 引き起こす メカニズムや、恐怖学習から消去学習に移る過程に焦点を当てました。

中でも、ノルアドレナリンという重要な神経修飾物質に着目しました。神経修飾物質とは、神経伝達物質の一種で、一般には広範な脳領域に作用します。

代表的なものに、ドーパミンやアドレナリン、セロトニン、そして私たちの注目するノルアドレナリンがあります。

つながる脳科学 「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線
(ブルーバックス) (p.233). 講談社. Kindle 版.

ノルアドレナリンの分泌の重要な中枢は、青斑核という部位です。青斑核はごく小さな部位にすぎないが、ノルアドレナリンを脳全体に分泌している。

つながる脳科学 「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線
(ブルーバックス) (p.250). 講談社. Kindle 版.

以後、詳細な基礎研究の経緯と成果が記述されています。神経回路にも、機械装置のようなフィードバックによる制御機能があるところまでは、分かってきたということですが、次のように、まとめています。

また脳におけるノルアドレナリンの神経回路を研究することは、創薬の観点からも重要になってきます。たとえばノルアドレナリンは、不安傷害における薬のターゲットですが、実際の治療に用いられてきたノルアドレナリン神経がターゲットの薬は、あまり効きませんでした。

おそらく、これまでの薬は広範なノルアドレナリンに関する神経回路全体をターゲットにしていて、もっと細かなノルアドレナリン性ニューロンの違いがあることなど理解していなかったせいでしょう。

私たちの研究成果から類推すれば、扁桃体に投射するノルアドレナリン性ニューロンをうまく抑えることで恐怖記憶をコントロールできる可能性があるのです。

不快 な 出来事 が 脳 の 中 で どう やっ て 神経 信号 に 変換 さ れ ているのか、これまでまったく分かってなかったことを突き詰めることで、大きなブレイクスルーがあるかもしれません。まだ先の長い研究になると思いますが、期待してほしいと思います。

つながる脳科学 「心のしくみ」に迫る脳研究の最前線
(ブルーバックス) (p.254). 講談社. Kindle 版.


本作品は、2016年11月に、講談社よりブルーバックとして刊行されたものを電子書籍化したものです。日進月歩の脳科学の世界ですから、もう既にブレークスルー済かもしれません。期待しましょう。


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