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ゴッホを支えたひとたち

自ら耳をそぎ落としてしまったエピソードが有名な画家、フィンセント・ファン・ゴッホ。

27歳で画家を志し、37歳で自らの命を絶つまで、約2,000点の作品を残し、そのほとばしる情熱を画面いっぱいに表現しました。

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今年はゴッホが亡くなり、130年になります。

ゴッホの作品はその人気ゆえに、いままでも日本の展覧会で数多く企画され、展示されてきました。130年たったいまも私たちが鑑賞できるのは、作品を大事に守り続けてくれた人があってこそ。

今回のゴッホ展は、そんな視点からのご紹介をしたいと思っています。

というのも、

新聞でこんな記事をみつけたことがきっかけでした。

ゴッホの作品に魅了され、約90点の絵画と180点を超える素描、版画を収集した、オランダの大富豪ヘレーネ・クレラー=ミュラー。

今回の展覧会では彼女のゴッホコレクションの中から油彩画28点、素描・版画20点が展示されているというのです。

わたしは、ヘレーネのことが知りたくなり、出かけてみようと思い立ちました。


そしてまた生前の彼を支え、死後も作品を大切に守り世に知らしめた、ゴッホの家族にも今回は焦点を当ててみたいと思います。


1.ヘレーネとその夫アントンのこと

ヘレーネは1869年~1939年に生きた女性で、ゴッホの作品を初めて購入したのは1908年のことでした。ゴッホが亡くなってから18年たっていて、生きていたら55歳。二人が出会うのに、けして無理な年齢ではなかった事を考えると、なにか感慨深い思いがします。

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ヘレーネが結婚したのは19歳の時でした。お相手はヘレーネの父親が経営していた会社の、将来有望とされた7歳年上のアントン・クレラー。

父親の勧めで結ばれた2人でしたが、結婚の翌年お父さんは亡くなってしまい、取締役代行だったアントンが会社を引き継ぐことになります。困難な局面でしたが、オランダの蒸気船会社の買収を成功。鉱石業だけでなく海運業を傘下にし、見事な経営手腕で成功させました。

ヘレーネの長女がイタリア旅行のために美術史の講義を受け始めます。その美術講師を務めたブレマーの影響でヘレーネも美術に興味を持ち始めるのです。

ブレマーは当時死後20年もたっていないゴッホを評価。ヘレーネもその存在を知り、「新しい時代を切り拓こうとした画家」として敬愛しました。

夫アントンの膨大な資産をもとにゴッホの作品を収集していきます。

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彼女はゴッホ以外にもミレー、ルノワール、スーラ、ルドン、モンドリアンらの作品やロダン等の彫刻等様々な美術品を購入しました。


コレクションが拡大するとヘレーネは美術館の構想をいだきはじめます。

しかし1920年に入り、アントンの会社の業績が悪化。美術館の建設は一時中断され、ヘレーネの健康状態にも影響をおよぼします。

1927年、大きな借り入れを返済すると、会社の経営状態が上向き始め、アントンはすぐさまクレラー=ミュラー財団を設立。膨大なコレクションを会社と切り離すために公共美術館設立を名目にコレクションを財団に収めました。

所持していた広大な土地を国立公園財団に買い取らせ、コレクションをオランダ政府に譲渡。美術館設立の計画がまた動き始めます。

1938年7月13日ついにクレラー=ミュラー美術館がオープン!

ヘレーネの長年の夢がかなったのでした。


しかし開館から1年半後の12月14日。ヘレーネは70歳の生涯に幕を閉じてしまうのです。



2.ゴッホの弟テオとその妻ヨハンナのこと

なにをやっても長続きしなかったゴッホ。彼はきっと家族の心配のたねだったにちがいありません。


彼が生涯にわたり、弟テオにあてた莫大な量の手紙が残されています。

テオの妻ヨハンナが彼らの死後その手紙を編集し、刊行。作品への思いや経緯が綴られ、のちのゴッホ研究に大いに貢献し、作品の評価への手助けにもなりました。

そのすさまじい量と濃い内容には圧倒されます。

こんな手紙を二日と置かずに受け取った弟テオの心情たるやどんなであったでしょうか。

ゴッホの死後の約半年後、テオが追うよう亡くなる真実もまた衝撃ですが、妹に「フィンセントは自分自身の敵だ」と綴っていたぐらい、苦しみながらも兄を支え続けた、その強い絆を考えずにはいられません。


これはゴッホの記述の記録だけでなく、不器用な兄さんを応援し支え続けたテオの優しさを知らしめるためにも、貴重な資料であったといえるでしょう。

妻であるヨハンナの、愛の偉業ともいえるのかもしれません。

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ヨハンナは1892年にアムステルダムにてゴッホの回顧展を開催。その後再婚してからもゴッホとテオのお墓を隣り同士にしてあげるなど、彼らのために生涯貢献しました。



今回の展示では素描も多く見られ、その完成度の高さも見ものです。油彩に挑戦する前にひたすらデッサンを学ぼうとする、彼のまじめさと情熱に心をうたれます。

当時のヘレーネと同じくこの作品の前に立つ自分。

いま感じている感動を時代を超えて共有できたような幸せを感じるのでした。

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拝啓ゴッホ様

あなたの死後、

あなたが魂をこめて描いた作品を守り、世界中にその良さを広めてくれた人々がいます。そのことをあなたに知らせたくて、筆をとりました。


悲しみと絶望の中で死んでいったあなたに伝えたいのです。

あなたの、心からの叫びを受け止めてくれた人はいたのだと。

あなたを愛してくれた人は、たしかにいたのです。


そして、

あなたの作品は今もたくさんの人を魅了しつづけています。


あなたの多くの苦しみは、残してくれたたくさんの作品をとおして、今を生きる人々を勇気づけているのです。





ゴッホが神と考えていた太陽が真ん中に大きく描かれている「種蒔く人」

ゴッホが大好きだった黄色が、

画面いっぱいに輝いています。

このポストカードと糸杉のブックマークを今日のおみやげにして帰ります。

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