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【美術と紙と本】【無料で楽しめる美術・博物館】竹尾見本帖 ブックデザイナー水戸部 功×名久井直子展

東京神保町の古書店街から少し道を曲がりひっそりとたたずむこのお店を初めて知ったのはもうずいぶん前になるのですが、その時の感動は忘れられません。

東京都千代田区神田錦町にあります

外から見るとただひたすらに真っ白で、しかし店内に入ると様々な色の様々な紙が並べられています。
ワクワクソワソワしていると、どれが欲しいのかわからなくなってきてしまいます。美しくて嬉しくなってしまってどれも欲しくなってしまうのです。

この店内写真はウエブサイトから引用しています

ようやく選んで「これをください」というと、お店の人がその紙を出しにいってくれます。それがこのすべて壁にあるひきだしなのですが、この風景がまた圧巻です。

壁がすべてひきだし

竹尾のお店はここの他にも東京では青山に、大阪と福岡に一店舗ずつかまえていらっしゃるようです。私はこの神保町にあるお店しか行ったことはありません。

このお店の2階では定期的に紙の展覧会が催されています。
今回は(2024年3月4日~4月12日)ブックデザイナーの水戸部功みとべいさお氏と名久井直子なくいなおこ氏の作品展ということで大変楽しみにしておりました。

「装丁家」「ブックデザイナー」という職業は現在の若いグラフィックデザイナーの方々にとっても憧れの職種ではないかなと思われますが、私もご多分に漏れず広告業に携わっていた20代の頃、やってみたい!と強く思っていたことがありました。(私のような者にはとんでもない願いだったのですが)
今回の展示では特に水戸部氏の作品に特に斬新な発想が数多くあり「こんな仕事をやってみたい」と感じるデザイナーは多いのではないかなあと感じました。

とにかくすばらしいお二人の作品がずらりと並べられており、これらを無料で鑑賞できるのはすごいことではないかと感じました。実際に手に取ってその「工夫」を感じることもできる書籍も用意され、また3時間強の映像ではお二人がご自身の作品作りにおけるポイントを語っておられ、貴重なアイデアを存分に堪能できる展示となっています。
この映像はお二人の普通の会話でなりたっているため、少し聞こえにくいところもありましたが、時間があったらすべて視聴したいくらいでした。

まずは名久井直子氏の作品から

川上未映子さんの作品に一時期はまったことがあり何冊か読みましたが「黄色い家」はまだ読んでいません。書店で平積みになっていたのを何度か見ていましたが、今回改めてみたらカバーはほとんどが濃い紺におおわれていて、「あれ?そうだったっけ?」とおどろきました。もっと全体に黄色だったイメージだったのです。「黄色い家」というタイトルにイメージを持っていかれていたのですね。でも黄色の補色である青が黄色をひきたてていて、より黄色を感じるデザインだと思いました。


エルメスで出版された絵本に100%ORANGEさんが起用されたというのは以前なにかで知っていたため、この作品がここで見られるとは思っておらず、嬉しくなりました。以前から100%ORANGEさんのイラストがとても好きです。

藤子・F・不二雄氏のSF短編集の書籍!
たまたま図書館でこの内容の文庫を借りて読んだことがあり、かなりショッキングな話が多く驚いたことがあります。でもすごくおもしろかった!
こういう発想があってのドラえもんなんだなと考えさせられました。

名久井直子氏の作品にはヒグチユウコさんの作品を起用したものが多くみられました。ヒグチユウコさんの作品では猫の絵でよく目にすることが多かったのですが、今回様々な描き方をみせていただき、改めてこの作家さんの偉大さを感じました。

これはヒグチユウコさんの画集なのですが豪華で迫力があり、ヒグチさんの作品のイメージがとてもよく表現されていると感じました。
作品について語られている映像の中でこの表紙に使われている色をお話されているのですが、金と赤と白とのこと。白はこの下の写真にあるように、背表紙にある花の中の目に使っているのだそうです。映像を見た後すぐに確認しに作品を見に行きました。

しおりもこんな形になっていて、おもしろい!


ここからは水戸部功氏の作品を

この作品はやはり映像の中で作る過程をお話しされていたので知ったのですが、文字を漂白したのだそうです。
だんだんに消えていく文字。
そしてすっかり漂白されて、カバーをとった書籍自体は真っ白というつくりになっています。

水戸部氏の作品はいままでにないデザイン性を感じる作品が多く、特に帯のデザインに遊びがあるように感じました。帯という存在が今までのそれとは違い、デザインの一部であり、一部どころか主役ですらある書籍もあり、とても興味深く感じました。

こちらの作品の帯はもう本全体を包むような形態です。
とってしまったらもう全く違うデザインになってしまいます。

紙は斜めのラインがはいりつつも文字はまっすぐに入り、帯をすると本自体には著者名しか見えない作りになっています。
タイトルはしっかりめだつようになっているし、違和感はありません。

この帯もまた折り方を取り入れることで独特のデザインをみせてくれています。色や折った形のせいか「祝儀袋」を思い出させられるような気がしましたが、どうなのでしょうか?

普通の帯よりも高さのあるもののためその存在感を強く感じます。

しおりもついてる!

この作品の帯はどんなふうになるのかな?と思っていたら

とりつけた本が飾られていました。
わあー!すごい。こうなるのかあ!

本屋さんや本がだんだんになくなっていくということは、もうずいぶん前から言われていますが、でもリアルブックス派の私としてはいつまでもこういうブックデザインという分野がますます発想豊かに発展していくことを願っています。
とても興味深い展示をみせていただきました。


帰り道驚いたんですが
このお店の隣の入口をふとみたら・・・

え?

隣にこの会社があったんです。
えー!
びっくりしました。

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