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「ひたすらヒトに寄り添う」ために生まれ、飛び立つのをやめた生きもの

先日、nuitoさんの「かいこかいこのかいこ展」へおじゃました。
彼女は、蚕という虫が大好きで、いつからか家で飼いはじめ、今は蚕飼いとして、蚕の繭から「糸くりする体験」の活動や、生糸を活かした展示作品を作り、蚕へのひたむきな愛を世に表現してくださっている。

彼女の丁寧に紡いだコトバは、ヒトと蚕の歩んだ道も、蚕という特殊な生態の説明も、すべてをぎゅっと的確に凝縮している。けれど、コトバがどこか優しい。そして静かな熱を感じる。
「この文章、ずっとずっと書いていたんです。何回も書き直して。」
と彼女は言っていた。
会期中にも改定版を出す位、自分の表現に向き合う彼女。
分かる気がする。伝わってくる。
このうつくしい詩のような文章を手にとって、蚕の展示の前で読むだけでも十分なんじゃないかと思うくらい。愛がつまっていて、泣けてきそうだった。
(実際の文章は、ぜひ直接読んでいただきたい!)


彼女の表現にひとつもウソがなくて、それは本当にお蚕さんの生き方と共通するように、自然体で愛嬌があって思いやりがあった。
まるで、彼女を通して、お蚕さんの声を聞いているような気持ちにもなった。

私は、20代半ばに体調を崩したことをきっかけに、「冷えとり健康法」のひとつとして、「絹糸の肌着」を身に着けるようになっていた。でも、どのように絹糸が生まれるのか、思いを馳せるまでにいたるには、まだまだ時間がかかった。
あるとき、真綿布団(真綿とは本来絹のわたのこと)を作る職人さんが生糸を作る工程をテレビ番組で観て、初めて蚕の繭はさなぎが入ったままぐらぐらとお湯の中で煮られてしまい、蚕のいのちはそこで終わることを知った。
頭では薄々そうなのであろうと思いつつも、正直、その抜け殻が怖いと思っていたし、とにかくいのちを犠牲にして生まれているのだから、絹を大事に扱おうと思っていた程度だった。
ただ、絹の持つ不思議な力は、ずたぼろな20代の私を「絹の肌着」で救ってくれたと言っても過言ではないくらい体感していたので、徐々に「お蚕さん」という生きものの存在自体に少しずつ尊敬の気持ちと興味が湧いてきていた。
そして、昨年nuitoさんと出会った。
彼女も満を持して今回の展示への運びとなったそうで、私にとってまさに、ずっと触れたかった「うつくしい何か」のひとつだった。
彼女がこのタイミングでこのように表現してくれたこと、とても嬉しく感謝した。
展示を拝見して、私なりに感じたのはこんなこと。

蚕は、虫としての生態をアスリートのように極力シンプルに絞り、飛び立つことをやめ、家畜として人生を全うすることを選んだ。
蚕は、もはや自然に放しても自然界では生きていけない。野生に戻るとしたらどの位の年月が必要なんだろう。
それでも「わたしたち蚕はここに降り立ち、根を下ろす。ヒトと共に暮らし、ヒトの役に立つために。」と腹をくくった蚕のご先祖の決意を感じずにはいられなかった。自分のいのちを全うする尊いいのち。
そして、人間との関係性が変化した時には、いつかいつかは蚕も人間のもとを離れて自由になるときが来るのかもしれない。。。

彼女が蚕に魅了され続ける理由も彼女の蚕への愛の深さも、ひっくるめて「うつくしいなにか」になって、展示されていると感じた。
ぜひ、多くの方に触れていただきたいな。
昆虫が苦手な人でも、多分リスペクトがあればいけると思う。
虫というジャンルを越えたうつくしい表現と愛がつまっている。
どうしても虫が苦手な方は、彼女のリーフレットの文章だけでも読んでほしい。あと可愛いイラストも^^
彼女の感性を通して生まれるひとつひとつの作品。

「かいこかいこのかいこ展」蚕/懐古/回顧 by nuito

7月20日(水)、21日(木)、22日(金)、
   27日(水)、28日(木)、29日(金)、
8月3日(水)、4日(木)、5日(金) の13:00~17:00

at takenoma たけのま  横浜市中区竹之丸194

https://www.instagram.com/nu_i_to_/

http://favoris.co.jp/topics/kaikokaikonokaiko/





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