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受験につながる法学のホットワード

筆者

カンザキジュク代表/スタディサプリ講師 神﨑史彦(かんざき・ふみひこ) 
出身校:法政大学法学部/神奈川県立瀬谷高校
プロフィール:『ルールブック』シリーズ(KADOKAWA),『小論文のネタ本』シリーズ(文英堂)など著書多数。阪大アドミッション・オフィサー育成プログラム修了(大阪大学高等教育・入試開発センター)。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程に社会人入学。


総合型選抜・学校推薦型選抜

 法学部進学のルートとして,皆さんは一般選抜をイメージすることが多いかと思います。一方で,最近では総合型選抜や学校推薦型選抜を視野に入れる受験生もいます。例えば東京大学の学校推薦型選抜,京都大学の特色入試,早稲田大学の新思考入試,慶應義塾大学のFIT 入試をはじめとして,国公立・私立を問わず,受験機会として一般選抜以外の形式と組み合わせた出願戦略が,スタンダードとなっています。

 総合型選抜とは,志望理由書・自己推薦書・事前レポート・活動報告書・調査書等の出願書類,グループディスカッション,プレゼンテーション,面接をもとに,受験生を多面的に見つめて合格者を決める入試形式です。

 他方,学校推薦型選抜は,学校長の推薦によって受験ができる入試です。試験科目は総合型選抜とほぼ同じですが,多くは評定平均値や特定の資格取得(外部英語検定試験など),実績等が出願条件として課されます。公募制(受験資格があれば誰でも受験できる)と指定校制(学校に推薦枠が与えられる)があります。

 特に国立大学では定員の3 割を総合型で選抜するという方針があったという経緯もありますし,司法試験合格率の高い大学の多くは総合型選抜・学校推薦型選抜の制度があります。これらの試験に臨〔のぞ〕むためには,課外活動や探究・研究活動をもとに,なぜ志望大学の法学部への入学を望むのかを丁寧に紡〔つむ〕いでいく必要があります。

入試で求められること

教育基本法に基づく大学の意義を知る

 その前提として,教育基本法7 条(大学の存在意義)を理解しておく必要があります。大学は「学術の中心」であり,「高い教養と専門的能力」を培〔つちか〕う場であり,「深く真理を探究して」「新たな知見を創造し」,その成果を「社会に提供」し,「社会の発展に寄与」するものとされています。大学はそうした場で学ぶだけの素養がある受験生を獲得〔かくとく〕したいと願っているということです。これらを念頭に置く必要があります。

なぜその大学・学部なのかを伝える

 その姿を見取るために必ずと言っていいほど課されるものは「志望理由書(なぜ法学部を選んだのか,なぜ志望大学なのかを述べる文章)」「面接」です。また,総合型選抜・学校推薦型選抜・一般選抜の2 次試験では「小論文」が試験科目となることもあります。

 皆さんの体験の中には,おそらく法に関連するものがあるはずです。法に従って日々の生活を送っているし,法に守られたり,逆に障害になったりすることもあるでしょう。そうした法に関係する現象を観察し,その現象に潜〔ひそ〕む問題(理想と現実のギャップ)と,その中に潜む法的課題(ギャップを発生させる要因)を解きほぐします。そのさい,さまざまな文献や論文を読んだり,裁判例を探ったり,時には法曹〔ほうそう〕や研究者に教えを乞〔こ〕うこともあるでしょう。そして,どういう法学研究を行えば解決するだろうか,既存の法解釈では難しい事象〔じしょう〕をどう取り扱うか,などと考えを巡〔めぐ〕らせることになります。

 すると,その研究ができる大学はどこだろうと,大学を探ることになります。さまざまな大学での学びや研究者を知る中で,こうした研究が可能な大学はここだ,ということを丁寧に整理していきます。それらを説明したものが「志望理由書」です。

 また,「小論文」「面接」の出題者は法学部の先生方ですから,法的課題について問いかけます。受験生は自らの学びの過程で得てきた法律の論点や法解釈,その底流にある哲学に触れながら,自らのリーガルマインドを表現していきます。

 これらの対応は時間がかかりますが,法学部を目指すのならばこうした学びも楽しいものだと思いますし,一般選抜へのモチベーションも上がることでしょう。法学部受験生はそれらを念頭において注目しておきたいところです。

法学部での小論文の出題傾向

 各大学によって出題される問題の傾向は異なることは承知の上で,特徴的な設問を1 つ紹介します。「民主主義と正義」についてです。

【設問】
 ウェブ上にアップされた講義(テーマは,「民主主義は後退しているのか」)を聴いたうえで,それでも民主主義もしくはデモクラシーに長所があるとしたら,それは何だと思いますか。1000 字以内で述べなさい。
(慶應義塾大学法学部・FIT 入試(A 方式)課題)

【考え方】
 講義ではデモクラティック・リセッション(民主主義の後退)を軸に,イデオロギーとしての「民主主義」と政治体制としての「民主政」の差を整理しつつ,リベラル・デモクラシーの機能不全とともに,新型コロナウイルスによる権威主義の台頭〔たいとう〕,そして政治体制の変容という現実を指摘しています。民主主義や民主政については高校の世界史や政治・経済といった科目で取り上げられるところです。ここでは,民主主義というイデオロギーは一言で片付けられないことに気づいてほしいということです。
 個人の自由と経済的自由の匙〔さじ〕加減でリバタリアニズム(自由至上主義),リベラリズム(自由主義),コンサバティズム(保守主義),コミュニタリアニズム(共同体主義)などとさまざまなイデオロギーが生じています。このバランスを間違えると,コモンズ(共有地)の悲劇のごとく,貧富の差や争いが生じるわけです。そうしたそれぞれの正義が対立する中で,次世代の民主主義をどうつくるのかというところを論じることができる設問になっています。

【必要な視点】
 この設問は「制度や法の捉え方」「民主主義」というリーガルマインドの根底を紐解〔ひもと〕くものです。民主主義や民主政は我々にとって肯定的に捉えているものの,問題を抱えるという前提で見直そうということです。クリティカルな眼差〔まなざ〕しを持って現状を捉えることは,法律学では特に必要な視点です。
 もちろん法学部では個別具体のキーワードも問われます。例えば「大きな政府と小さな政府」「情報公開制度」「憲法改正論議」「企業の社会的責任」「選挙権年齢の引き下げ」「雇用格差」「生活保護」「ベーシックインカム」などがあります。これらの問題は民主主義を取り巻く思想をもとに思考を深め,解釈していくことで,鮮明に理解できるようになります。誌面の都合でそれぞれの解説は省きますが,個別具体のテーマもさることながら,こうした法を取り巻くシステムを俯瞰〔ふかん〕しつつ,エラーとその解決方法を考えておくとよいかと思います。

学習方法のアドバイス

法学部へ行きたい人へのアドバイス

 法学部に進学するということは,我々が生きる世界に根付く法の文脈と哲学を引き受けることと同義です。いま拠〔よ〕り所にしている法,裁判例には意味があって存在しています。ただし,法はその当時の背景があってつくられているし,裁判例も同様です。先人たちの法にまつわる闘争を引き受けつつ,我々の世代,そして次世代にどうその法を引き継ぐか,もしくは変えていくのかということに思いを馳〔は〕せてほしいと思います。

 言い換えれば,法律学は人々の未来を語る学問です。つい法学部は暗記ばかりだとか,学力の高い人が行くものだというステレオタイプに陥〔おちい〕りがちですが,そういう見方はつまらないと率直に思います。学問として法律学を捉えると,素敵なものです。学問で「民主主義のあるべき姿」「正義とは何か」「法解釈のあるべき姿」などと堂々と議論できる学びの場など,ほかにありません。

高校生活での学習アドバイス

 法学部に進学したいと思ったら,ぜひ高校の授業の「先」まで進んでみることを期待したいです。例えば世界史で自然法論と法実証主義を学んだのであれば,この二者がどういう法解釈につながり,どういう世界をつくってきたのだろうかとか,過去の文脈を心ゆくまで追いかけてみましょう。プラトンやアリストテレスから続く主義主張の対立,絶対主義と相対主義の対峙〔たいじ〕は,自然法論と法実証主義それぞれに根づいています(実際にこれらをテーマにする小論文も頻出です)。

 インターネットで調べるのもよいし,果敢〔かかん〕に研究論文の読解にトライするのもよいでしょう。その上で,法学研究者たちはその問題を世界の中でどう位置付け,どう乗り越えようとしているのかを追ってみます。論文には現段階での研究の限界が示されています。そういう現実を理解しながら,自分ならどういう世界にするために,どう乗り越えるのか,思考を巡らせてみるとよいでしょう。いわゆる「探究」「法学研究」の第一歩を踏み出すことを勧めます。

 私なら,この探究・研究の姿を志望理由書や小論文,面接に反映させると思います。法律学に強い興味関心を持つ人物であることが,自ずと言葉に現れるものです。

 また,できるだけ書籍を読むことをお勧めします。高校の地理歴史・公民の授業だけでは捉えきれない問題を志望理由書や小論文,面接では問われますから,その体力をつける意味でもありますが,純粋に面白いものです。

 個別具体の法に関わる初心者向けの本だけでなく,法哲学の世界に触れるチャレンジもいいですね。

 お薦めの本として,次の3 冊を挙げておきます。

出版社ウェブサイトより引用

・『もしも世界に法律がなかったら―「六法」の超基本がわかる物語』(木山泰嗣,日本実業出版社,2019 年)
 法学の入門書として,高校生にも馴染〔なじ〕みやすい書籍。ライトノベル風なタッチで,女子中学生が法律がない世界で巻き起こる諸問題に触れるというストーリー。無法の世界で巻き起こる問題をもとに,法律の仕組みや役割を学ぶことができる1 冊です。六法〔ろっぽう〕の概要を理解した上で,例えば新書や法律書に触れるという使い方をお勧めします。


出版社ウェブサイトより引用


・『使える哲学―私たちを駆り立てる五つの欲望はどこから来たのか』(荒谷大輔,講談社選書メチエ,2021 年)
 法と倫理,哲学は切り離せないもので,小論文の設問でもよく問われます。だからこそ,哲学書にも触れて,日常の当たり前を疑い,問う姿勢を学んでみましょう。「富」「美」「科学」「正義」「私」という5 つの事柄を疑い,現在を起点に過去に遡〔さかのぼ〕り,我々の生活は歴史の積み重ねによって成り立っているということを確認する意味で,読破しておきたい1 冊です。


出版社ウェブサイトより引用

・『日本人の法意識』(川島武宜,岩波新書,1967 年)
 西欧諸国の法律にならって,日本の法律はつくられました。筆者は明治期に成立した法体系と日本人の法意識がズレるために,法が予期しない事象が起こると指摘します。もちろん今日に至るまで法に対する意識は変化してきましたが,一方で現代を生きる我々に根強く残るものもあります。法律を通して日本人とは何者かを論じる書籍として,一読を勧めたい1 冊です。

法律学の魅力

 どの時代も法を巡って苦悩し,乗り越え,また壁に直面し,という繰り返しです。そうした道筋を辿〔たど〕ってみると,人間の愛おしさ,醜さ,在り方と向き合うことにもつながります。それだけ法律学は人との関わりが強い領域でもあります。

 そうした積み重ねは,法律学という学問の意味を捉え返す良い機会になります。

 法学部法律学科出身の私から,法学部受験生にエールを送りたいと思います。応援しています。頑張ってください!

※ 「法学部で学ぼうプロジェクト」編集部より

本記事は『「法学部」が面白いほどよくわかる』に掲載されたものです。
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