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エンタープライズ市場を制す!高単価SaaSのアライアンス戦略と5つの実践ポイント

こんにちは、志村(@hiro_shimu)です。3年前の以下の記事では、SaaSのパートナーモデルや協業プランについて私が思うところを書いてみましたが、本記事では高単価(ARR 数千万円〜億単位の規模)のエンタープライズSaaSのアライアンス戦略に特化して、私が実践の中で学んできたベストプラクティスを共有したいと思います。

<想定読者>
・外資SaaSのカントリーマネージャー、アライアンス責任者
・B2B SaaS事業を拡大しようとしているスタートアップの経営者
・エンタープライズ市場の開拓を担当している方


1. アライアンス部門の重要性と社内での認識のギャップ

アライアンス部門は、直販では限界のあるビジネスを何倍にも拡大するために非常に重要な役割を担っています。しかしその重要性と難易度があまり社内で理解されず、他部門からはその活動が見えにくいこともあり、ネガティブなイメージを持たれることがあります。直販部門から、「パートナーから全然案件が来ない」「パートナーが自走でクロージングできない」といった不満が寄せられることは実はよくあることです。

日本は米国とは違い、7割以上のエンジニアがSIer(システムインテグレーター)やコンサルファームに在籍しています。日本企業ではシステムの内製化が進まず外注することが依然として多く、高単価のSaaSベンダーにとってはアライアンスの成否が生死の分かれ目といっても過言ではありません。

しかし、アライアンスは短期的な成果を出しにくいという特性があります。そのため中長期のプラン、進捗、成果などを定期的に社内で共有し、理解を深めてもらう努力が求められます。これは主に、アライアンス部門の責任者が意識すべきことです。

2. SaaSベンダーとSIerの違い

SaaSベンダーとSIerは、営業アプローチと顧客エンゲージメントの方法で大きく異なります。高単価のSaaSベンダーは、事業部門のトップや経営層に直接訴えかける課題解決型の営業を行うことが一般的です。彼らはプロダクトの価値を経営的な課題と紐付け、企業戦略に直結する大きな提案をします。

一方、SIerは伝統的にIT部門の現場や課長レベルとのリレーションが強く、技術的な課題解決を志向します。「御用聞き」といわれることもある旧来型の彼らのアプローチは、スクラッチ開発も含め、数ある商材の中からお客様の直接的なニーズを満たす提案をすることに重点を置いているため、高単価プロダクトのような戦略的かつ経営レベルでの提案にはあまり慣れていない場合が多いのです。

そういった背景から、単に製品トレーニングを行うだけでは不十分で、Value SellingやSales Playのトレーニングなども含め営業力の強化や共同セリングをしないと、なかなか案件をつくることも推進することも大きくすることもできないというのが実際のところかと思います。

ちなみに、コンサルファームの場合は相手が経営層になるという特性があります。課長レベルの課題解決ではなく、企業の最上位である経営課題のソリューションを提案するため、必然的にその金額は高くなります。経営課題に刺さらず、インプリでも稼げないSaaSは担がれません。

ただし、コンサルファームは構想策定から提案することも多く、四半期ごとに高い売上目標が課せられているSaaSベンダーにとっては提案期間が長期化しがちというデメリットもあります。攻めたいアカウントに応じて、SIerとコンサルファームの両者の特長をうまく活用してパートナーシップを推進することが求められます。

3. アライアンスマネージャーのよくある勘違いと正しい動き方

アライアンスマネージャーが陥りがちな勘違いの一つに、パートナーの製品主管部門への情報提供やリレーションさえしっかりやっていれば自然と案件が創出できると思い込むことがあります。それは明確に誤りといえます。

窓口として、パートナー社内の調整役として、主管部門が重要な役割であることに間違いはありませんが、実際に案件をつくるのはその先にいるアカウント営業です。つまり、SaaSベンダー(のアカウント営業)はパートナーのアカウント営業と密に連携し、ターゲットアカウントについては共同でアカウントプランをつくるなどのアクションが必要になります。

一般的に、アライアンスマネージャーには自ら案件創出できるほどの営業力やソリューション提案力はないため(もちろんあるのが理想です)、社内のアカウント営業とパートナーのアカウント営業を引き合わせ、共同セリングを推進するというのが正しい動き方になります。

これをスムーズに実施するために、受注時にはアライアンス部門と直販部門の両方に数字がつくようにしておく必要があります。片方にだけつく仕組みにしてしまうと、アカウント営業の協力を得られず、自社のビジネス拡大という目的にそぐわない結果を招いてしまいます。

外資SaaSでは、Deal Registration(通称:ディールレジ)という仕組みが整っている場合が多く、案件初期から共同セリングを行えるプロセスはあるのですが、他に例えば以下のような取り組みを行うことが有効です。

・案件レビューの定例を設定し、そこに両社のアカウントチームを招集して適切にパートナーをフォローアップ
・ワークショップを企画し、アカウントプランのブラッシュアップや提案力の向上を集中的に実施

4. アライアンス戦略の肝

アライアンス戦略を考えるにあたり、共同マーケティングも必須の要素ではありますが、特にパートナーシップ初期においては、いかに1件ずつ受注を積み重ねていくかという観点で、成功の鍵はやはりアカウント営業との協働にあると私は考えています。

SaaSベンダーのエンタープライズ営業組織は、金融/公共/通信/製造/流通/サービスなど業界ごとに営業チームが分かれていることが一般的です。アライアンスマネージャーが効果的な動きをするためには、常日頃から各チームの営業マネージャーとリレーションを深めておくことが大切で、社内政治力というのも重要なスキルになってきます。

パートナーの営業マネージャーとターゲットアカウントを決め、共同セリングを繰り返すことで次第にパートナー側にもスキルが蓄積され、自ら案件発掘したりクロージングまで自走できるようになります。当然、狙いとしてはここまでもっていきたいのですが、エンタープライズ向けの提案は半年や1年以上かかることもざらにあり、育成は一朝一夕にはいかないため、この点がアライアンスが成果を出すのに時間がかかるといわれる所以になります。

また、そもそもパートナーのアカウント営業が、数ある提案可能商材の中から本気で自社プロダクトを担いでくれるようになるためには、こうしたボトムアップ的な動きとともに、トップダウンで落としてもらうことが肝になります。協業による両社のメリットを明確化し、トップ同士で握ることで、営業部門にSaaSプロダクトの売上予算が設定されます。

うまく会食やゴルフなどのイベントもはさみながら、トップ同士や関係役員とのリレーションを深め、この状態をつくる必要があります。QBR(四半期ごとのレビュー会)などの節目には、両社の役員にも必ず出てもらうよう調整できると効果的です。

そしてもう1点、オファリング(自社プロダクトとパートナーのプロダクト/サービスを組み合わせたパッケージ)の作成とその拡販の仕組みづくりも大きな肝になります。オファリングという言葉はアライアンス部門以外の人には馴染みがないかもしれませんが、アライアンスの世界ではよく使われる言葉です。

なぜなら、アライアンス部門に求められる成果の1つとしてこのオファリング作成があり、これがあることでパートナーはSaaSプロダクトを売りやすくなりますし、SaaSベンダーのアカウント営業もお客様の課題に合ったパートナーのオファリングを選んで提案できるようになるので売りやすくなります。例えば製造業向けなど、業界別のオファリングがあれば提案のしやすさは格段に上がります。

ご参考までに、以下は富士通のSalesforceオファリングの例です。

5. ベストプラクティスまとめ

ここまで述べてきたとおり、エンタープライズSaaSのアライアンス戦略には下記5つの実践ポイントがあります。

1. トップマネジメント同士の強いリレーション形成
2. 両社のアカウント営業による共同アカウントプランと共同セリング
3. パートナーの強みを活かしたオファリング作成
4. 案件レビューやQBRなどの定例によりビジネス推進のリズム構築
5. 製品面だけでなく営業力強化のトレーニングプログラム提供

アライアンスは直販営業と思惑が一致しないこともありますが、自社のビジネス拡大という大義名分のため一枚岩になり、パートナーとの長期的な関係構築とともに持続可能なビジネスの発展を目指すべきです。

こう考えると、アライアンスマネージャーという仕事は非常に戦略的でエキサイティングな仕事です。市場に与えるインパクトの大きさから、求められる適性が近いエンタープライズセールスの次のキャリアとして位置付けても面白いと思います。


いかがでしたでしょうか?日本のスタートアップだとARR数億円というプロダクトはまだないと思いますが、今後必ず出てくると思いますし、実は高単価のSaaSでなくてもアカウント営業同士の連携や共同セリングという考え方はとても重要だと私は思っています。

また、パートナーのメイン商材を売るためのフックや補完財としてSaaSベンダーのソリューションがうまく利用できることもあり、何も売上や利益の貢献だけが協業の形ではありません。

ぜひこの記事から1つでも自社ビジネスに活用できる点を見出し、さっそく取り入れていただけたら書いた甲斐があったというものです。実践された結果など、個別に教えていただけたら嬉しいです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!もしよかったら他のnote記事やツイートもお楽しみくださいませ。


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