都倉俊一とドルオタ

・都倉俊一、珍現象を発見する
 都倉俊一(現・文化庁長官)というポピュラー作曲家がいます。ピンクレディー・山口百恵・山本リンダ等の曲を作曲した、昭和の大アイドル作曲家で、日本最初期のアイドルプロデューサーのような人です(違うかも)。今日はその人が偶然アイドルオタクについて語っている文章を発見したので皆さんに紹介します。

 またアイドルに対するファンの姿にも珍現象がみられるようになる。
歌手志望はなぜか女の子が圧倒的に多く、アイドルもまた女の子が多いわけだが、その女性アイドル・スターを男子高校生が集団で応援するという現象は、珍現象の最たるものといっていいだろう。彼らは鉢巻きをしめ、アイドルにむかってなりふりかまわず声ふりしぼり"〇〇ちゃん"と叫ぶ。これだけのために、彼らは延々何時間も戸外に立ち尽くして待ちもするのだ。
 彼らの父親の世代には想像もできなかったことだろう。

証言の昭和史10 "Oh! モーレツの時代" 佐藤昭編集 都倉俊一担当パート「アイドル・スター誕生 テレビ時代の申し子たち」 学研  昭和57年

 この本自体は1982年に発行された本で、ピンクレディーがペッパー警部でデビューしたのは1976年、UFOは翌年です。1977年に高校生という事は1959年~1961年生まれのしらけ世代・断層の世代の後期にあたります。
 また、最初期のアイドルには南沙織「17歳」が1971年、麻丘めぐみ「わたしの彼は左きき」が73年、男性アイドルは郷ひろみ・西城秀樹・野口五郎の新御三家が70年代中盤から人気でした。それを考えるともう数年早くカウントしてもいいかもしれません。よって「最初期のドルオタとは、1957年~1961年頃に生まれた世代である。」と都倉の記述から算出できました。(ちなみに私は30代半ばでオタク第三世代=萌え世代なんですが、モロに私の親世代でちょっと困惑しています。)

 この世代はもはや60代です。漫画オタク・アニメオタクもそうですが、オタクも既に老人の趣味になりつつある事がアイドル史からもわかります。SMILE-UP(旧ジャニーズ)系だと、郷ひろみがジャニーズでデビューし後にバーニングに移籍、1979年に近藤真彦・田原俊彦・野村義男の"たのキントリオ"がジャニーズからデビューしています。こうした豪華な名前を見ていると、70年代後半は2010年代に劣らない程のアイドル全盛期だったんだと感じますね。5年後~10年後の松田聖子・少年隊世代はバブル世代です。

・都倉俊一とアイドル像
 引用箇所を見ると、この時代のアイドルオタクにはイェッタイガーのようなコールがまだ発明されてないようです。サイリウムも無く代わりに紙テープを投げていたようです。面白いのでもっと都倉の文章を読んでみましょう。

 都倉俊一の文章で戸惑う点、それは所々でアイドルを「スター」と呼んでいることです。「スター誕生」で才能を発掘したとか、何か強烈な人間的魅力がある人がスターになれるとか、どことなく目に見えない才能頼みの感じがあります。
 それは2010年代以降の地下アイドル時代・誰でもアイドルになれる時代とは違いますね。当時のアイドルを今で例えると、Adoと新しい学校のリーダーズのSUZUKAを"足しっぱなし"でなおかつ乃木坂みたいな可愛い曲を歌いう感じでしょうか。ああ、私は30代だから「安室奈美恵ぐらい」と言えれば簡単なんですが、Z世代には伝わりませんよね。AKBに大島優子しかいなくて48人分の人気があるような感じですかね。なかなか昭和の「スター」という言葉の重みを伝えるのは難しいです。

 昭和時代、「アイドルの歌は下手」という風潮があったそうです。都倉はそれに「テレビの力もあるけど売れるタレントにはやはり何かがあるよ」と述べています。音痴自体は否定しないんかい。それはともかく、私(元オタ)としては、アイドルはダンスがあるし、若さも必要だし、それで歌まで求めるのは過酷じゃないかいと思います。むしろモーニング娘以降は歌手・歌姫とアイドルが分離していって、2024年現在でもアイドルに歌唱力はあんまり求められないのは昭和と変わりませんね。

 都倉俊一は文末で「日本人の音楽的感性はまだまだ。ピンクレディー世代が育てば日本の音楽は変わるだろう」と書いてあります。当時は丸っきり歌謡曲の時代で、70年代ロック全盛期の洋楽とは遥かにレベルが違ったのです。
 都倉は「日本の音楽はどんどん海外進出をはからなくてはならない」と書きました。それから50年後、使命は果たされませんでした。日本のアイドル産業は内向きで特殊な形態になりました。都倉の言ったことは韓国のアイドル産業が丸ごと実現しました。
 平成後期、アイドル産業はAKBの投票権商法のようにアイドルオタク向けに特化した産業になっていきました。その事がアイドル業界の海外進出を阻んだというなら、なんと皮肉なことでしょうか。