昔の話㉛

性懲りもなく高校の時の野球部の話します。

あれはたしか高校一年の秋の大会の時。とんでもない試合をしてしまいました。

公式戦であるにもかかわらず、20対21というおよそ野球のスコアとは思えない数字を叩きだしてしまったのです。しかも負けました。まあこんな恥ずかしい試合をしてしまった時点でどっちも負けみたいなもんですけど。

なぜ両チームともこんなに点が入ってしまったのか。それは双方ともまともなピッチャーがひとりもいなかったという至ってシンプルな理由でした。

なんせストライクが入らない。四球乱発。フォアボール祭りでした。この世で一番開催されないでもらいたい祭りのひとつです。

両チームとも何人かピッチャーはいたのですが、こぞってストライクが入らない。普段そこまでノーコンではないはずのピッチャーもなぜか調子悪い。三年生が引退してすぐの大会であるため、どこのチームも完成度はさほど高くない時期ではあるのですが、それにしても酷かった。

フォアボールでランナーをためて置きにいった甘い球を痛打されるという典型的な失点パターンの繰り返し。両チームともに。途中何度か「これは流石に勝っただろ」と思う程の点差がつきましたが、ことごとく追いつかれ追い抜かれ、双方全戦力を投入し、気が付けば20対21。試合時間は優に4時間を超える戦いとなりました。試合中は雨が降っておりました。文字通りドロッドロの泥試合でした。

悪いことは重なります。その試合が行われた球場は松山坊ちゃんスタジアムという愛媛県が誇るプロ野球対応型球場、いわゆるプロスタです。オールスターゲームも行われたことがあります。

本来であればここで試合ができるということは非常に喜ばしいことなのですが、いかんせん結果が結果です。バックスクリーンの電光掲示板には高校名と選手の名前、そして20対21という情けないスコアがデカデカと表示されています。他所の学校の選手や保護者もいっぱい来てます。我々は松山市内に大恥を晒し散らかしてしまいました。

監督の先生は試合中盤からもうキレてました。もうこれは勝とうが負けようがいずれにせよ地獄を見ることになるだろうなと確信しました。もうずっとこの試合が続けばいいのになと思ってました。

4時間を超える泥試合を終えた後、すぐに学校へ戻るよう指示がありました。球場では人目があるから、粛清は治外法権の学校の敷地内でというのは日本の学生スポーツのしきたりのひとつですね。

当時我々は公式戦の際、市内であれば基本的には自転車で移動していました。お通夜のような雰囲気で学校まで移動し、どんな酷い目に合わされるのだろうと怯えながら監督が来るのを待っていたところ、予想していた倍ぐらいのキレっぷりで監督がやってきました。

これは終わったと死を覚悟した僕でしたが、事態は思わぬ展開へ向かいました。

禍々しいオーラを纏った監督の第一声は

「この中に学校に戻る途中に信号無視をしたやつがいる。名乗り出ろ」

というものでした。

怒りの原因ひとつ追加で乗っかってるやん。誰だ余計なことをしたのは。

もちろん僕はそんなことはしていませんでしたが、ここにいる誰かが火に油を注いだのは確かです。いい加減にしろよと思っていたところ僕の同級生が数名手を上げました。すると監督はそいつらに無言で強烈な掌底を食らわせていきました。それはもう首から上がどこかへ飛んで行ってしまうのではないかと言う程の。そして続けてこう言いました。

「こんなに少ないはずがない。もう何人かいるはずだ」

と言いました。するともう何人かが追加で手を挙げました。

「どうして一回で名乗り出んのだ」

とそいつらは二発ずつ掌底を喰らわされていました。犯罪を犯しても自首すれば罪が軽くなるというのは本当でした。

以前の記事にも書いたのですが、僕の同級生はロクデナシの集まりで、本当にどうしようもない連中でした。そのため僕は部内ではひとつ上の先輩方と仲が良く、いつも行動を共にしていました。この日も球場から学校までは一緒に戻っていましたが、先輩方は信号無視などという愚かなことはしません。一緒に帰っててよかったと心から思いました。

当時は「信号無視くらいでそこまでやるかね」と思っていましたが、学校というものは近隣住民の評判を過剰に気にする組織です。背中に学校の名前が入ったカバンしょって自転車で走ってる坊主頭の集団が信号無視してれば「○○高校の野球部が信号無視してたぞ!」というチクりが入りかねないのでそれは厳しく注意する必要があるでしょう。最近は特に厳しいのでそれが原因で部活動停止とかにもなりかねません。なにより信号無視はバリバリの犯罪です。

さて、掌底をお見舞いされた信号無視ーズはその後無限ダッシュだったか永久ランニングだったかなにかしらアホほど走らされ、しばらくの間全体練習から外されてました。

フォアボール祭りを開催した投手陣は監督自らが放つ超至近距離ノックを数時間お見舞いされ、その後やっぱり走らされてました。

そのおかげと言ってはなんですが、それ以外の部員はお咎め無しでした。後は好きにしろって感じでしたが目の前でズタボロに痛めつけられてるヤツらがいるのに自分たちだけ先に帰るのも気が引けたので、適当にバット振ったり筋トレしたりしてました。

ビックリしたのはその後の信号無視ーズの会話。二番目にシバかれたヤツらが一番目にシバかれたヤツらに対して

「お前らが白状しなければあのままやり過ごせたかもしれなかったのに何で手を挙げたんだバカ!そのせいで俺たちまでシバかれただろうが!それも二発も!」

とキレていました。一ミリも反省していませんでした。情けなくなりました。完全に底辺の人間の会話でした。

先に白状したヤツらは

「お前らが出遅れたのが悪いんだろうが!」

と正論を言っていましたが、二発シバかれた組は聞く耳を持たずひたすらキレ続けていました。

普段はサボる為に結託している癖に、自分だけが一方的に損をしたと感じるとすぐに仲間割れをするとは。なんとも醜い。あんなに強くシバかれても腐った性根は変わらないってことは、実は鉄拳制裁にはあまり効果が無いのでしょう。

たった一日の間に、様々なことが起こるものです。本当に情けない気持ちになった一日でした。

まあ、一番情けなかったのは、4時間を超える長い試合の間、戦力としてカウントされず一度も出番が無くてずっとベンチに座ってた僕自身なんですけどね。


読んでいただいてありがとうございました。退屈しのぎにでもなっていれば幸いです。