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【第28話】リーダーへのヒアリング④

しかし、話が煮詰まったのか、困った顔をして太陽は飛田の方にやってきた。

「じゃあ、どうしようか」飛田は子どもたちを集めて、お互いに相手の意見を聴くように促した。以前の飛田であれば、すぐに解決策を伝えていたかもしれない。しかし、今の年長の子どもたちと関わり対話を繰り返すうちに、子どもの力を信頼するようになっていた。

保育者は基本的に人の役に立つことを嬉しいと感じる。そのため、自分がどうしたら周囲に貢献できるかを常に考えている。しかしそれは、自分が有能感を感じるためにやっている場合も多い。


飛田が「安易にアドバイスを言わない」という選択をしたことで、子どもたちからは飛田が考えつかなかったような面白いアイデアが次々と出てくる。

「運動会の時みたいにテープを使ったらいいんじゃない」

「でも誰がテープを持つ?」

「じゃんけんでさ、順番を決めてやればいいんだよ」

「でもそれじゃあ、全員が走れないじゃん」

「ゴールした人が順番を覚えていて言えばいいよ」

「でもまたズルになっちゃうかもしれないよ」

「ひまわりさん(4歳児)にお願いすれば?」

「ひまわりさんじゃできないよ」

あーだこーだと意見が一通り出尽くした後、はじめて子どもたちの間に沈黙が訪れた。

それまで黙って聴いていた飛田が、そこで初めて口を開いた。

「なるほど、全員がリレーに参加したいんだね。でもスタートとゴールの係がいないと、ちゃんとリレーができないということだね」

「そうそう」

「そうか、難しいね〜」

飛田がこれまでの話を要約し共感すると、子どもたちの興奮が少し収まった。

「虎せんせい、やってくれない?」と太陽が言った。また飛田は少し葛藤したが、今日は大人が子どもたちの見本となっても良いか、と思い承諾した。そのような経緯があり、飛田の役割はスタートの合図を出すことと、ゴール後に順位の判定をすることになったのだ。


「もうそろそろお迎えの準備しなくちゃいけないから、誰か変わってくれる?」と飛田は言った。実際はまだ時間があったのだが、あえて子どもたちに任せてみようと思って発言したのだった。

盛り上がっていた子どもたちからは案の定「えー!」という反応。しかし、子どもたちも仕方がないと納得したのか、また話し合いを始めた。子どもたちだけでどんな結論を出すのか楽しみで、飛田はしばらくその様子を眺めていた。

しかし、やはり先程と同じで話は堂々巡り。

「なっちゃん、何かいいアイデアない?」

飛田はそれまで一言も話していない夏子(なつこ)に話を促した。夏子は、普段は口数は少ないが、7歳年上の兄がいるためか、時に中学生のような言葉を使って物事を説明することがあった。

不思議と体の大きな飛田のことを怖がらず、二人で話をする時にはいつも興奮気味に饒舌になるのだった。ひょっとすると同い年の友だちにはあまり理解してもらえていないと感じているのかもしれない、と飛田は思っていた。


「ストーリーで読むファシリテーション 保育リーダーの挑戦」一覧はこちら
https://note.com/hoikufa/m/mdab778217cb1

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