鈴木健史(保育ファシリテーター実践研究会 主宰)

東京立正短期大学 幼児教育専攻 准教授。 保育ファシリテーション実践研究会主宰。 専門…

鈴木健史(保育ファシリテーター実践研究会 主宰)

東京立正短期大学 幼児教育専攻 准教授。 保育ファシリテーション実践研究会主宰。 専門は保育者論、子育て支援、ファシリテーションなど。 講演・研修・執筆依頼は「保育ファシリテーション実践研究会ホームページ」から https://hoiku-facili.work

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最近の記事

【第32話】幻想の中で生きる③

子どもの理解において順子が大切にしていることは、複数の推測をすることだ。つまり、「ああかもしれない」「こうかもしれない」と、決めつけをせず色々な可能性を考えることだ。そうすることで、保育者の関わりも多様になる。保育には「こうすれば必ずこうなる」という正解がないからこそ、そのような保育者の姿勢が大切だと考えていた。 しかし職員に対してはどうだ。なぜか対象が大人に変わっただけなのに、いつも決めつけてしまう自分がいる。飛田が記録を書けないのも、努力や熱意が足りないせいだと決めつけ

    • 人材育成で欠けているもの「試させる」

      人材育成でよく欠けてしまうものが「試させる」です。 人は体験から多くを学びます。体験から学ぶには、「何が起こったのか」「なぜ起こったのか」など体験をふりかえり、「次にどうするか」を考えるという体験学習の循環過程を繰り返す必要があります。 体験から学ぶということは、失敗から学ぶということです。 人材育成において、失敗を恐れさせるような関わり(失敗を咎める、必要以上の責任を負わせるなど)をしてしまうと、新たな一歩を試そうとしなくなります。 すると、昨日のやり方を今日も繰り返す

      • 【第31話】幻想の中で生きる②

        自分が感じていることと現実には乖離があるのかもしれない、と順子は考えるようになっていた。 最近、順子が保育において気になっていたのは、保育者の子どもの理解が浅いということだ。 たとえば保育者の保育記録を読むと、「〜して遊んだ」「〜を楽しんでいた」という記述が多い。 しかしこれでは、子どもが何を楽しんでいたのか、記録を日々チェックしている順子には理解できない。 もう少し丁寧に子どもの興味関心や育ちを読み取って欲しいという思いが順子にはあった。 そんな思いから順子は、つい保育

        • 人材育成で欠けているもの「動機づける」

          「研修を企画する時に大切なこと」でも書きましたが、人材育成でよく欠けてしまうのが「動機づける」です。 保育では、子どもの興味関心を理解することや、「面白そう」「やってみたい」という思いをとても大切にしますが、大人を対象とした人材育成ではそれが欠けてしまうことが多いと感じています。 基本的に、人は自分で「変わりたい」とか、「成長したい」と思わないと、変化・成長しようとしません。 外側から他者が「変わりなさい」「成長しなさい」というプレッシャーを与えることは、ありのままの自分

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        • ストーリーで読むファシリテーション 保育リーダーの挑戦
          34本
        • 保育ファシリテーション・リーダーシップ
          45本
        • ファシリテーションの素材・フレームワーク集
          23本
        • コミュニケーション・人間関係
          24本

        記事

          【第30話】幻想の中で生きる①

          二人のリーダーから、「リーダー会議」への提案に対してあまりにもあっけなく同意が得られ、順子は拍子抜けしてしまった。 自分が恐れていたことは何だったのだろうか、と順子はぼんやり考えていた。 リーダー会議を実施することについては、二人から反対されるだろうと思っていた。また、もし同意が得られたとしても、それは主任の順子の機嫌を損ねることを恐れ、妥協するだけだろうと予測していた。 ところが実際には、リーダーの二人からはリーダー会議に対する前向きな姿勢と意欲を感じられた。実際に本

          研修を企画する時に大切なこと⑤

          研修を企画する時に大切なことの一つは、「試させる」時間を設けることです。 多くの研修は次のような構造になりがちです。 「研修で学ぶ→現実場面で試す」 ところが、研修は温泉のようなもので、研修中はあたたまって「よし、やってみよう!」と思うのに、研修後はその思いが冷めてしまって実践につながらないということが起きます。 そこで、研修中に「試させる」時間を設けることが大切です。 たとえば、コミュニケーションに関する研修では、様々なワークを通して体験をしてもらいます。 丁寧に聴くこ

          研修を企画する時に大切なこと④

          研修を企画する時に大切なことの一つは、「動機づける」時間を設けることです。 研修において「教える」ことばかり意識して、「動機づける」が不足している場合があります。 「動機づける」というのは、研修で学ぶ内容を、参加者が「学びたい」と感じられるようになるための工夫です。 たとえば、研修の最初に少し時間を取って、次のようなことを2〜3人で伝え合い、聴き合います。 ・今日の研修のテーマを聞いて思い浮かんだこと ・今日の研修のテーマに関して知りたいことや学びたいこと ・今日の研修の

          研修を企画する時に大切なこと③

          グループでの対話やグループワークを実施する際は、メンバー構成によって体験できることが変わってきます。 たとえば、普段から話す機会の多いメンバー同士だと、安心して話し合いやワークに参加できるでしょう。 特に、参加・対話型の研修に慣れていない場合に、積極的な参加を促したい場合には有効です。 ただし、個人的にはあまりおすすめできません。なぜなら、研修とはチャレンジの場だからです。 いつもと同じメンバーでいつもと同じ話をしていても、得られる気づきや学びは少ないです。 そのため、普

          【第29話】リーダーへのヒアリング⑤

          飛田が声をかけたことで、子どもたちの注目が一斉に夏子に集まった。なかなか話し出さない夏子であったが、子どもたちは日常の話し合いでもそうしているように、じっと待った。 「・・・・・走り終わった人がゴールをやる・・・」 絞り出すようにして夏子が言葉を発した。 「あぁ、なるほど!それなら全員がリレーに参加できるね」 飛田が感心して言うと、周りの子どもたちも夏子の提案に反応し始めた。 「じゃあさ、じゃあさ、スタートの合図はどうする?」 子どもたちは、この問題に突破口が見え

          研修を企画する時に大切なこと②

          研修を企画する時に大切なことの一つは、環境設定です。 机や椅子、プロジェクターなどの配置は、参加者の立場に立って考えましょう。 特にグループワークや、グループ間の移動などがある場合は、動きやすい配置にすることが重要です。 長時間座っていて疲れないか、プロジェクターは見やすいか、隣のグループの話し声が気にならないくらいの距離が保てているかどうか、など確認しましょう。 マイクを使用する場合は、スピーカーが近すぎるとストレスを感じます。 保育環境を考えるときと同じで、参加者(

          【第28話】リーダーへのヒアリング④

          しかし、話が煮詰まったのか、困った顔をして太陽は飛田の方にやってきた。 「じゃあ、どうしようか」飛田は子どもたちを集めて、お互いに相手の意見を聴くように促した。以前の飛田であれば、すぐに解決策を伝えていたかもしれない。しかし、今の年長の子どもたちと関わり対話を繰り返すうちに、子どもの力を信頼するようになっていた。 保育者は基本的に人の役に立つことを嬉しいと感じる。そのため、自分がどうしたら周囲に貢献できるかを常に考えている。しかしそれは、自分が有能感を感じるためにやってい

          【第27話】リーダーへのヒアリング③

          その日の午後、おやつを食べ終わった5歳児は、園庭に出て遊んでいた。 さくら保育園の園庭には、大きな鉄製の遊具がある。これはさくら保育園の開園当初からあった。他には、すべり台やブランコもあり、体力のある5歳児は、いつも午後は園庭に出てこれらの遊具で遊んでいた。 体の大きな5歳児がいるため、乳児クラスはいつも午後は園庭を使わない。 乳児クラスの保育者から、午後に園庭に出て遊ばせたいという意見が出てくることはあったが、いつの間にか「乳児クラスは、午後は室内で過ごす」というルール

          【第26話】リーダーへのヒアリング②

          順子は二人のリーダーに声をかけ、午睡中の時間に職員室に来てもらった。 約束の時間になると、二人一緒に職員室に入ってきた。 主任の順子に突然呼び出されることはこれまでもあったが、子どもの怪我や保護者からのクレームが入った時だった。そのため二人は心配になり、職員室に来る前にホールの片隅で乳児クラスと幼児クラスの情報交換をしていたのだった。 二人は不安な面持ちで、順子の前にある椅子に並んで座った。順子はすぐに本題に入った。 「実は、『リーダー会議』をやってみようと思っている

          第3幕【第25話】リーダーへのヒアリング①

          順子は、天真爛漫で失敗を恐れない子どもであったが、大人になるまでに様々な経験を重ねたことで、石橋を叩いて渡るような性格になった。しかし、子ども時代の天真爛漫さは今でも時々顔を出す。思っていることを自分の中に留めておけず、率直に言葉にするような時などだ。 リーダーという立場になることによって、自分の事だけではなく、チームや園全体のこと、さらに子どもの育ちに対して大きな責任を感じるようになり、さらに自分の言動に慎重になっていった。 栗田が行った園内研修から二週間経ったが、まだ

          第3幕【第25話】リーダーへのヒアリング①

          コミュニケーションスキルを向上させるために

          コミュニケーションスキルは正しい型を知り、練習することで上達します。 スキルなので、性格とは切り離して考えることができます。 たとえば、心理カウンセラーと呼ばれる人たちの性格も様々ですが、カウンセリングのスキルを身につけることで、誰でもカウンセリングを行うことができるようになります。 (もちろんカウンセリングやファシリテーションはマインドも重要なのですが。) スキルは練習しないと上手になりません。 ところが、コミュニケーションを失敗すると相手との関係性が悪化する可能性があ

          コミュニケーションスキルを向上させるために

          研修を企画する時に大切なこと①

          研修を企画する時に大切なことの一つは、研修のねらいを設定することです。 たとえば、「子どもの主体性を尊重する保育者のかかわりについて理解を深める」といった、その研修で達成したいねらいを設定します。 そして、そのねらいが達成できるような研修内容や流れをデザインします。 ねらいを設定する際には、研修の参加者のニーズを理解することです。ニーズとは、参加者の興味関心や、課題です。 興味関心があれば、積極的に参加する姿勢が生まれます。課題というのは、「子どもの主体性を尊重する保育者の