誰かの日記(二〇二三年十一月十三日)

夜、チェーンの中華屋に入り野菜炒めを食べる。好きでも嫌いでもないものを食べて、食べ続けて、何の思い入れもない野菜とかが俺の血になっている。

野菜を作る農家たちは、美味しい野菜を届けたいとか本当に思ってるんだろうか。ほんの少し野菜の味を変えるために、毎日畑を見て土とか水とか気を使っているんだろうかと思うと、報われないなと思う。野菜の味とか、どうでもいいだろ。

現にこのチェーンで出された消毒液みたいな味のするキャベツの千切りと、古い油で作られた野菜炒めを美味い美味いと言って食ってる奴らがほとんどな訳で、普段の食事で野菜の甘みとか誰も気にしていない。塩とか醤油とか、しょっぱい味付けがされてればOK。

そう考えると大体の奴は美味いとか不味いとかで食事する店を選んでる訳ではなくて、もっと漠然とした好きとか嫌いとかで何を食べるのかを選んでるのかもしれない。チェーン店でなくとも、町中華なんか大概不味いんだから。雰囲気なり流行なりに乗っているだけだ。

テーブルの下を見ると小さなゴキブリが居た。汚いと思ったけど、都会の飲食店なんかこんなもんだよなとも思う。厨房側ではもっといるんだろうな。俺が店主なら厨房側にブラックキャップとか置くだろうし、裏の食材の上をゴキブリが歩いてようが火通せば問題ないし。

ゴキブリは床と壁の隙間に入っていった。ゴキブリは薄い。

最寄駅で電車から出た途端、駅のホームで酔っ払いの男(20代位)がゲロを吐いていた。水っぽいやつ。耐えてたんかな。長い1発目のあと、一呼吸置いて2回3回とジャージャーと音がした。周りにいた人は急ぎ足でそいつから離れて、自分の服が汚れてないかだけを気にして改札に向かっていった。

他人のゲロを間近で見たのは久しぶりで、こうも勢いよく吐かれると存外、見ていて気持ちいいと思ってしまった。テレビでゲロを映す時にキラキラのエフェクトをかけるやつがあるけど、意外と本物のゲロもキラキラしていたと思う。

お前、よくぞ車内で耐え抜き、俺と同じホームで吐いてくれた。鼓舞する気持ちと共に、駅員にホームで吐いてる人が居たことを伝える。どっち側のホームで吐いてるのか、男か女かを聞かれて答えると、困り9笑顔1くらいの感じで了解ですと言われた。

汚ねえ街に住んでるなと改めて思ったが、この街のことは案外嫌いじゃない。

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