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筒井康隆「旅のラゴス」のレビュー(925字)

筒井康隆の「旅のラゴス」を読んだ。最初に読んだのは10年ほど前、社会人になってしばらくの頃だったが、改めて読み直してのレビューを残しておく。

ストーリーは、ある文明社会が一度滅んで、ラゴスが残された書物から再び社会を発展させるという、漫画のDr. Stone のような話である。

80年台のSF作品であるが、瞬間移動の表現方法が興味深い。
単に別の場所に意識を集中させて移動することは誰でも思いつくが、集団の意識統一や所持品の条件など、かなりのページを割いている。
今でこそ「額に指を当てて瞬間移動をするサイヤ人」や「ルーラでどこへでも行けてしまう勇者」は当たり前だが、やり方を細かく描写しあり、実際にやる時の苦労が伝わってくる。
移動した先に物があった場合に大爆発してしまうのは、ちょっと荒っぽい気はする。

もう一つのSF要素として、壁抜けの表現がある。壁に張り付きながら向こう側をイメージして、どうしてもそちらに行きたいという思いだけで、壁と身体が原子レベルで一体化するそうだ。
私の表現ではとてもできそうにないが、筆者の描写を読むと本当にできる気がしてくる。現にラゴスがやってしまった。
壁抜けについては、英国の魔法少年がスルッとやっているが、本当はラゴスくらい苦労するものだと思う。

さて、本筋のラゴスは間違いなく格好いい。頭もいいし、道中で女性にもモテる。男性ならば必ず自分をラゴスに重ね合わせて読むだろう。
ヒロイン的存在はデーデで間違いないが、他に魅力的な女性と言えば、炭鉱で知り合うラウラである。ラゴスと共に奴隷でありながら、知恵と積極性で支配者側の地位を手に入れる。
ラウラの最後は、ラゴスが逃げ出すのを知って追っ手を呼びに行ったのでは、とラゴスが疑うシーンで、その後どうなったのかの描写はない。不便な炭鉱であっても好きなラゴスと一緒にいたかったのだろう。

文明を取り戻していくシーンは、生物学(コーヒー)から始まり、化学(電気)や法学、社会学に至るまで、先人が詰め込んだ全学問が含まれている。
Dr. Stone は化学に特化した内容なので、対照的である。

ラゴスの最後は、旅を続けることであったが、やはり男は好きになった人をずっと追いかけたい生き物である。


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