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PERCHの聖月曜日 74日目

結び

私は民藝館の蔵品について、そのあらましを述べましたが、次にその特色について述べてみたく存じます。いずれの国にも民藝品はあり、互いに多くの共通点を示しておりますが、自然と歴史という二つの大きな背景により、必然に各自独特の性質が示されております。

まず日本の品は、遠く深い歴史を持ち、伝統を背負うことにその特色があります。史実以前の時期は別と致して、ほぼ千年に近い歳月の基礎が見られます。次に日本は厚く海洋に囲まれているため、歴史に大きな外寇がなく、これが日本の品々に固有さを守らせた一つの力でありました。且つ諸々の手工藝がもっとも栄えた江戸時代は幸か不幸か鎖国時代であったので、外国の影響がきわめて少く、これが日本固有の品を育成する機縁となったことは、幾多の作品がよく示しております。しかも封建時代に日本各地には藩主があり、自国の工藝を愛護致しました。その都市の町名に手工藝にちなんだ名がおびただしくあることは、いかに日本で手仕事が人々親しまれていたかをよく語ってくれます。加うるに日本は、南北に長い国で、寒、暖、熱の三帯に及び、資料の変化が極めて多く、また生活の様式も違ってきて、これが品物に多くの種類や変化を与えた原因でありました。

さらにもう一つ他の国にない事実は、「茶の湯」の勃興と流布とでありまして、極めて深くまた広く人々に器物への愛情を植えつけました。しかも「渋さ」とか「寂び」とかの理念は、国民の嗜好に深みをさえ与えました。もとより日本は大陸の中国や半島の朝鮮でもなく、比較的平和の続いた小さな島国であったことが、その嗜好にもおのずから親しさや楽しさの性質を植えつけました。もし「支那の形」「朝鮮の線」といい得るなら、日本は恐らく「色の日本」といい得るのではないでしょうか。その多彩な衣裳の紋様は、よくその特性を示していると存じます。ともに楽しむ悦びが、すべての作品に示されていることに、その特長を感じます。ちなみにこれらの民藝品に見られる共通の特性を列挙致しますと、

第一は、いっさいが無銘品たることであります。ここでは作者の署名がないのを通則と致します。

第二は、いっさいが何らかの意味で実用性を持つことであります。決してただ鑑賞されるために作られたのではありません。

第三は、数多く作られ、また安く売られる品々であります。決して高価な稀有な品ではありません。

第四に、いずれも伝統を持つ作品であって、決して個性を主とした品ではなく、いずれも非個人的な特色を持ちます。

第五に、簡素で質実な性質を持ちます。これは用をむねとして作る必然の結果ともいえましょう。

第六は、総じて健康であり尋常な品であります。決して病的で異数の品ではありません。

第七には、ここで民衆と美との厚い結縁が見られます。これは凡人すらなお美しい品を生み得る証拠ともなります。

第八は、それが他力的性質を持つことを示します。職人たちは自力で立てる境遇にはいないからであります。

(1960年)

ーーー柳宗悦『日本民藝館案内』日本民藝館,2004年,p65

Rajão
Augusto Merciano da Costa
late 19th Century

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