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決戦、仮想盆踊り大会(1988)後編

このエッセイはkensukeさんの提供でお送りいたします。

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さて、本編に入ります。どうせ暇でしょうからゆっくり、前編からご覧ください。

前編はこちら。


決戦の日に向け、私の仮装は早々に「河童」に決定した。

昨年は「手に何かを持って踊る仮装」が上位入賞であったことを考え、策士である母と相談の末に、私はキュウリを持つことにした。母の裁縫技術がさく裂し、私はどこからどう見ても緑色の河童にドロンした。瓢箪までぶら下げたのだ。完全体と言えよう。

ついでに、私の上位入賞にさらなる追い風(いや、神風と言ってもいい)が吹いた。

何と、ライバルである姉の仮装選びが難航したのである。母と姉の意見が分かれ、次第に言い争いとなり、姉は嫌だ嫌だと言った。結局、姉は納得しないまま「花嫁」に仮装することになった。

バカめ。お盆にそんなウエディングドレスみたいなものを着て、争いに参加しようと言うのか。それに、目に涙を浮かべながら踊るバカがどこにいるのだ?仮装盆踊りにおける最大のパートナーである母と揉めることも、悪手である。いつも私の前に立ちはだかる強敵とはいえ、環境を活かせないとは、姉も大したことはない。

実際、盆踊りの最中、姉は元気なく、祭りやぐらの周りを徘徊した。踊りとも言えないような消極的な動きをし、結局、審査をまたずに途中で盆踊りを離脱してしまった。

一方の私は、元気よくやぐらの周りを踊り、周囲の仮装ライバルたちを観察する余裕さえあった。

杖を持ち、天使の輪を頭に載せ、片乳首を丸出しにした「スーパーゼウス」の恰好をやらされている、みすぼらしい少年が少し目新しいな、とも思うが、彼は寒かったのか途中で帰ってしまった。いずれにせよ大した敵ではない。それに大人に「スーパーゼウス」というキャラクターが認知されていてたまるか。他を見渡しても、明らかに去年見たような仮装、言ってしまえば去年と全く同じものを使いまわしている子すらおり、ライバルらしきライバルは皆無だった。

姉が離脱した今、どこをどう見ても、入賞を約束されたコスプレイヤーは、私しかいなかったのである。


しかし、そこには、なぜか、今までの人生で感じたことのない、むなしさ、というような感情があった。

姉がいないのに、争う意味があるのだろうか?私だけがビックリマンを手に入れることは本当に、楽しいことなのだろうか?私は、姉がいて初めて自分の力が発揮できてきたのではないか?

複雑な気持ちだった。不安であり、何か悪いことをしているような気がした。

もやもやしたものを感じていたが、盆踊り大会は踊りのパートを終えた。そして、ついに、審査と結果発表の時間となった。

去年と同じ仮装だった(低レベルコスプレイヤーの)子供たちが、次々と入賞してゆく。

そして3位にはスーパーマリオの仮装をした少年が選ばれた。あと2名を残してはいるが、姉の名は呼ばれる気配すらなかった。消極的な踊り、そして、途中放棄だったのだから。

私は正直、1位でも2位でも、どちらでもよくなっていた。なんなら1位がお姉ちゃんで、私は2位でもよかった。ビックリマンは欲しいが、二人でもらえれば一番うれしいとも思っていた。

しかし、奇跡は起こった。

「2位は…ウエディングドレスで参加してくれた…24番!」

なんと、姉の名が呼ばれ、2位に入賞したのである。私は心臓が飛び出るほどビックリマンし、とてもドキドキ学園した。

素直に嬉しかった。帰った姉の代わりに受け取った景品の中には、確かにビックリマンがあり、「お姉ちゃん…やったよ。」と、私は、姉の無念を晴らした気がした。

さあ。審査員がマイクを握り、優勝者の発表だ。

「1位は…」


「かわいいスーパーゼウスで踊ってくれた…8番!おめでとう!ワアアアア…(歓声)パチパチパチパチ…(拍手)」




神よ。

いったい俺は、どこまでピエロなのだ?


10位入賞もせず、パチモンのドキドキ学園のシールすらもらえない私は、一体何なのだ?あんなに一生懸命踊り狂った俺の苦労は?姉の不在に葛藤した俺はなんなんだい?河童ではなく、ピエロ(魔肖ネロ)の仮装でもした方がマシだったかい?

先にさっさと家に帰って着替えてちゃっかり戻ってきていたスーパーゼウス(少年)は、景品にビックリマンが入っていることを知らなかったらしく、とてもビックリして飛び上がり、大喜びしていた。

それを見て、私はどういう気持ちだったのか、全く思い出せない。少なくとも、視界は、やまだかつてないほどに、涙で歪んでいた。


俺(ピエロ)は、傷心のまま家に帰って、めっちゃ泣いた。

今、人生を振り返っても、最愛のおばあちゃんが亡くなったときに次ぐ、壮絶な号泣をした。声を上げて泣いた。


数日後、悪魔に魂を売った私は、デパートのガチャガチャコーナーで、ニセモノのビックリマンシール(ロッチ)に手を染めていた。

100円で買えるそのチート・アイテムは、何度引いても、怪しいスーパーゼウスが入っていて30枚くらいが束になって出てくるのだ。私は、簡単に手に入る偽物で満足する男になってしまったのだ。

初めは、友人の勧めで、軽い気持ちでやってみたのだが、だんだんと、それをやらないと不安に襲われるようになってきた。しまいには「ロッチでもいい!ビックリマンが欲しい!」という依存者にありがちな思考回路に陥り、ロッチのスーパーゼウスが偽物でなく本物に見えるという幻覚症状も出ていた。

しかしよく見れば、ゼウスは、全然、片方どころか、乳首など全く出ていなかったのである。じゃあなぜあんなイメージ先行のコスプレに負けたのか。

神よ。というかゼウスよ。真実を教えてくれ。

おれの何が悪かった?

この謎の出来事は、小学時代七不思議のひとつとして、深く私の心に刻まれた。

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