「同じ○○仲間」

知ってる人は知ってる話だけど、僕は以前"自転車で旅をしながら各地で路上ライブをする"ということをしていた。

毎年8月に3週間ほどかけて各地方をめぐり、5年かけて全都道府県を巡った。まあ沖縄だけは流石に自転車では行けないので飛行機に乗ったけど。

そんなことをやっていたときの話。

とある地方で、その日の路上ライブをひとしきり終え機材を片付けてそろそろ宿に帰るか、というタイミングで、地元のストリートミュージシャンと思しい男性から「もう一曲歌ってよ」と声を掛けられた。

口ぶりからするに、あまり好意的な態度ではなかった。

当日路上ライブができそうな場所を探すのにうろうろしていたときに、その男が路上ライブをしていたところをちらっと見かけていたのだが、彼の演奏に足を止めている人はそのとき誰もいなかった。僕の方はSNSで告知して観に来てくれるよう呼びかけていたのもあって、幾人かの人が集まってくれていた。その様子を見た男が「ウチのシマで知らない余所者が勝手している」と不愉快に思って絡んできたのだろう、と察しがついた。

例えば、熱心に応援してくれている方からの「観に来ようとしてたけどギリギリ間に合わなかったから一曲だけでも聴きたい」というようなお願いだったら喜んで演奏したと思う。

けど片付け終わったあとで正直面倒くさかったし、知らないところで追加で曲を演奏するのってその日足を運んでくれた人に対してどうなの?って思うし、見るからに好意的でない人のいうことを諾々と聞くほど僕だって人間ができていない。

僕は「いや今日やる曲は全部終わったんで」と断ったが「いいじゃん一曲ぐらい」とその男は食い下がってくる。

断る、食い下がるの問答を繰り返すうちにヒートアップしてきて「別にいいだろ一曲ぐらい、同じミュージシャン仲間が頼んでるんだからそのくらいやれよ」と向こうが言い放った。

僕はそれがとてつもなく不愉快だった。

同じミュージシャンだから共有できるものもあるだろうけど、同じミュージシャンだから譲れないものの方が多くないか?と僕は思う。

音楽好きで、音楽をやっているからってすべての音楽を愛せるわけじゃないし、好きな音楽があればこそ、嫌いになる音楽、認めたくない音楽だってたくさんある。

別に音楽に限った話でもなく、同じ趣味の仲間内でほんのちょっとした取り組み方の違いに距離を感じる、という経験は誰にでもあるはずだ。

僕はガンダムが好きだけど、ガンダムオタクの中でも全作品好きな人もいれば富野作品原理主義者、宇宙世紀派いろいろあるし、ストーリーが好きな人もいればキャラ推しの人もいればメカが好きな人もいる。

自転車が趣味だけど、レース指向とロングライド・ツーリング指向では楽しみ方がぜんぜん違う。

トレーニングが趣味だけど、スリムな細マッチョになりたい人と、ムキムキゴリマッチョになりたい人じゃやってることはぜんぜん違う。

「地雷」という言葉があるぐらい、同好の士の間でもNGなことってのは誰しもが何かしら持ってるものだ。

同じ仕事をしていたって、これが天職だ!と自己実現のために取り組んでいる人もいれば、稼がないと生活できないしなとサラリーのためだけにやっている人もいる。

人間関係全般だってきっとそうだろう。

親しくなって相手のことを知れば知るほど、根本的な考え方の違い、埋まらない溝というものに気づくものだ。

埋まらない溝を知ってなお、それにどう折り合いをつけていくかがコミュニケーションだと思う。

そういうコミュニケーションのありようをすっ飛ばして、よく知りもしない相手に一方的に「同じミュージシャン」というラベルを貼り付けて「仲間」扱いするその粗野な態度が、ああこの人は僕が嫌いな人間だ、とうてい「仲間」にはなれない人物だ、と感じさせるものだった。

人は「同じ○○」で括れるほど単純じゃないし、一人ひとり大事にしてるものが違うこととか、簡単には分かり合えないこととか、コミュニケーションの難しさとか、そういうことを考えたり悩んだり苦しんだりしたことがないから、アンタの歌は誰にも響かないんじゃないですか?誰も足を止めないんじゃないんですか?ぐらいの嫌味を言ってやろうかと思った。流石にそれは言わなかったけど。

結局どうなったかというと、その男の発言にカチンときた僕も売り言葉に買い言葉で言い合ってたら、男に胸ぐらを掴まれ、その場にいた人に止めに入られてお流れになった。

あの人今ごろ何やってんだろうなあ。名前も知らないしその地方の路上ミュージシャンで検索しても出て来ないし知りようがないんけど。

今となっては良い思い出……いやぜんぜん良くねえなやっぱ。

***

なぜ急にこんな話をつらつら書いているかというと最近「同じミュージシャン仲間」で雑に括られることがあってちょっと嫌だなって思ったからと、このエピソードを知ってる人にネタを擦られて改めて思い出したからです。

この話から得られる教訓は、

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