笑える怪奇小説

稲垣足穂の怪奇小説
『山ン本五郎左衛門只今退散仕る』
その荒唐無稽さに驚き笑えた。
これでもかこれでもかと日々、
とんでもない怪奇現象が起こる。

家中に雷鳴が轟き、畳が舞い上がり、
石臼が飛んで来たり刀が舞い落ちる。
女の首が腹の上に乗り上がり、
無数の坊主の首が空中に浮かぶ。
村人は皆怖がるが家人は逃げ出さない。

狐や狸の仕業だと猟師が罠を仕掛ける。
天狗の仕業だと祈祷札がもたらされる。
しかし一向に奇怪事は収まらない。
丸一カ月も化け物が家を這い回る。
とうとう現れたのが山ン本という大男。

人間を驚かせるのが仕事のお化け。
笑わせるほど滑稽な怪物だが、
家人の度胸と根気に負けて姿を現し、
「只今退散仕る」と一言残して
謝罪して家から退散したのである。
化け物とはいえこれほどの仕業を考えた
足穂の才能は天晴れとしか言いようがない。