ゴルフコースの神様

2013年、17歳で
102年ぶりに英国に
全米アマのタイトルを
もたらした少年が、
9年後、同じコースで
全米オープンの
タイトルを獲得した。

優勝したのはマシュー・
フィッツパトリック。
舞台となったコースは
ボストン郊外にある
ザ・カントリークラブ。
創立140年の歴史を誇る
由緒あるコースだ.

ドライバーショットを
はるか300m先の
グリーンを狙うくらいの
正確さで打てなければならない
非常に狭いフェアウェイ。
曲げれば深いラフにつかまり
ボギーはおろかダボもある。

グリーン周りには厳しい
バンカーがひしめき合い、
ピンはグリーンの端にあり、
卓越したスピン技術がなければ
滅多に寄せることはできない。
グリーンのスピードは高速で
繊細なタッチが要求される。

世界に類を見ない難しい
設定の全米オープンで
世界にその名を轟かせる
名手たちが一堂に集まり、
凌ぎを削り、優勝を目指す。
誰が勝ってもおかしくない
最終日の展開だった。

世界ランキング1位の
スコッティ・シェフラー、
前年の全米チャンピオン、
ジョン・ラーム、常に
メジャー大会の上位に入る
ウイル・ザラトリスが争い、
松山英樹も追撃していた。

こうした激戦の状況のなか、
フィッツパトリックは
正確なショットを武器に
クールにプレーし続けた。
しかし最後の最後の18番、
ドライバーショットを
左のバンカーに打ち込んだ。

出すだけで精一杯の状況。
2位との差はわずかに1打。
ボギーで上がればプレーオフ、
ダボなら優勝できない。
そんな絶体絶命のピンチで
フィッツパトリックは
グリーンを狙ったのだ。

狙えると言ったのは
ビリー・フォスター。
彼の言葉通りにボールは
グリーンに乗った。
優勝が決まったとき、
ビリーの顔には涙が溢れ
帽子を下げて顔を隠した。

フィッツパトリックが
トロフィーを掲げる。
「信じられない。
夢に見た光景が現実になった。
ビリーのことを信じてきたから
最後のショットも決まり、
優勝することができた」

由緒あるゴルフコースには
ゴルフの神様が棲んでいる。
その神様に好かれるか否かで
優勝できるかどうかが決まる。
それは一見、運に思えるが、
実は選手の不断の努力を
神様が見ていたとしか思えない。
このゴルフコースの神様は
彼の9年間の努力を見て来たのだ。