『シカゴ育ち』

スチュアート・ダイベックの処女短編小説集、
『シカゴ育ち』の原題は“THE COAST OF CHICAGO”。
単純に訳せば「シカゴ沿岸」だが、読めばなるほど
『シカゴ育ち』のタイトルがぴったりと来る。

シカゴの廃れた工場街で育った少年の物語ばかり。
貧しい家庭で育ったため将来がまるで見えない。
やるせなさとせつなさだけが泥沼の心に襲いかかり、
悶々とした哀しさと孤独さが漂う少年時代。

軍隊を脱出して極寒の冬を逃げ回り凍傷となり、
今は熱い湯の入ったバケツに足を突っ込み、
パデレフスキーのショパンを語る浮浪の叔父と
階上のピアノソナタだけが慰めとなる少年の話。

シカゴの荒廃地域にたむろする不良少年たちは
夜の街をポンコツ車で疾走してヤジを飛ばす。
バンドを組みロックやブルースを口ずさみ、
マリファナを吸って憂さを晴らしていく。

男たちに犯されそうになってボートから飛び降り、
溺死体となった半裸の美少女が氷り漬けにされ、
金髪を靡かせた幽霊となって人々の伝説となる。
その氷を貯氷庫から運び出そうとする少年たち。

ダイベックが語る古いシカゴの物語は
どれもこれも心が震えて忘れることができない。
巨大なミシガン湖を海のように眺めながら、
海ではない似せものに自分を重ね合わせるのだ。