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酔い電話

父はよく、夜中に酔って電話してきた。
「美絵ちゃん、元気か?特別用事はないのだけどね」
私はそんな父に対して「用事がないなら電話してこないでよ!」と言っていつもそっけなく電話を切っていた。だけど電話を置いた後には必ずなんとも言えない気持ちに襲われた。苛立つ反面、なんて冷たい娘なんだろう、どうしてもっと優しく接してあげられなかったんだろう、と。そんな夜は罪悪感と切なさで、なかなか寝付けなかった。寂しがり屋の父は私の元気な声を聞いて心地よく酔って眠りたかったのだろう。
そんな父の酔い電話は30年前以上に途切れた。父はもうこの世にいない。父の死後味わった喪失感が再び私を襲う。懐かしい、遠い時の果てに消えていった父の酔い電話。
「美絵ちゃん元気か?」

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