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「キャメロット」感想 6世紀のイングランド国王から21世紀の私へ

 ISLANDの社長に突然井ノ原快彦が就任し、おそらくジュニア担中で最も距離の離れたグループの一つだったトニセンがジュニア担の中で最も身近なグループになってから約1年。実はトニセンの坂本昌行さんは7 MEN 侍と一緒にWEB番組をやっているので7 MEN 侍のオタクだけはずっと坂本さん、トニセンのお世話になっていました。私個人としてはあちこちの舞台に行く舞台DDなので坂本さんの作品も観たことはあるのですが、タイミングが合わなかったり、ちょっと苦手な作品に出ていたりと結構久しぶりな気がします。
 正直古典演劇作品をたくさん観る方ではなく、シェイクスピアでさえも数作しか観れていないので教養不足が出てきてしまいそうですが、挑戦することが大切だろう、ということで頑張って書きます。

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『ブロードウェイミュージカルキャメロット』
宮田慶子演出 坂本昌行主演 桐山照史出演(アラン・ジェイ・ラーナー脚本)

 アーサー(坂本昌行)は王家の血筋ではなく、先代が残した“誰も抜くことができない剣”を抜いたことで中世イングランド「キャメロット」の王となった。グィネヴィア(唯月ふうか)を妃に迎え、偶然自分が持つことになった「国王」という力に戸惑いながら、どのようにして国を統治するのかを考える。戦争を憂いたアーサーは上下関係のない円卓を用意し、そこに騎士を集め、武力ではなく話し合いで問題を解決する「円卓会議」を提案。それに賛同する形でフランスから騎士道精神溢れる騎士、ランスロット(桐山照史)が現れる。ランスロットとグィネヴィアは徐々に惹かれ合い、アーサーもそれに気付きながらも見えないふりをして過ごす。そんな中城に現れたアーサーの隠し子・モルドレッド(入野自由)の策略でランスロットとグィネヴィアの関係性が明るみになり、アーサーは苦悩の末、自分が作った円卓会議の“法”に則りグィネヴィアを処刑しようとするが駆けつけたランスロットがグィネヴィアを救出。イングランドとフランスの戦争が始まる。戦時下で、円卓の騎士になるべく駆けつけたという田舎の弓兵に戦争が終わったらイングランドに帰り、アーサーの物語を伝えろと伝え、幕は降りる。

 様々なバージョンが存在する「アーサー王伝説」を原作とする今作だが、一番特徴的なのは“アーサーがランスロットとグィネヴィアの関係を長く見逃していたこと”ではないだろうか。「アーサー王伝説」では2人の関係を知ったアーサーはすぐにグィネヴィアを火炙りにしようとするバージョンが一般的なようだが、今作のアーサーは2人の関係性をかなり序盤で知り、グィネヴィアをどうするべきなのか苦悩する描写がある。グィネヴィアは自分を裏切っているとはいえ、人を処刑することに躊躇があるのはかなり現代的であるように感じた。

 私は古典演劇作品があまり得意では無いのだが、その理由の一つは“要素が多すぎる”ことで人物像が描ききれずそれぞれのキャラクターに共感できないからだ。今回で言うとモルドレッドがアーサーの隠し子であるという設定や、ランスロットが突然槍で貫かれた兵士を生き返らせる描写、未来が見えるおじさん…どれも無くても良い設定ではあるが、無かったら無かったでちょっと意味が変わってきてしまうというもので、省くこともできずどれもなんとか入れ込んでいるのだろう。それらを描くことに時間を割かれて、特にグィネヴィアが何を考えているのかがわからず共感しにくいように感じた。お城での生活が退屈で窮屈だったことは理解できるが、どうしてランスロットを愛しているのかが全く分からない。二人の関係が変化したのは槍で貫かれた兵士をランスロットが生き返らせたところからだが、それで人を好きになるのか…………。そもそも古典演劇とは共感しながら観るようなものでは無いのだろうが、そういう見方があまり上手くできないので苦手なんだなと再認識させられた。物語の中に自分を投影できない作品が苦手なんだろう。

 このまま、坂本昌行の印象の話をしたい。先ほど「物語に共感できない部分が多かった」と書いたが、坂本が演じるアーサーがグィネヴィアが違う人を愛していると知った時、そして、グィネヴィアとランスロットの関係が露見した時の苦しみが見ているこちらにも伝わってきた。一国の王として法に則りグィネヴィアを処罰するべきであるという気持ち、グィネヴィアの夫としてグィネヴィアとランスロットを許せない気持ち、そして、なるべく争いごとを避けたいという1人の優しい人間としての気持ちの間で揺れる6世紀のイングランド国王の苦悩が、坂本昌行という役者を介することで、2023年の日本の会社員である私に届くのである。彼が事務所のなかでもミュージカルスターとして一歩進んだところにいるのは、役の咀嚼力が優れているからではないだろうか。アーサーが何を感じ、考えたのかを理解するだけでなく、自分自身の中にあるアーサーを引き出す形で、争いを避け、平和を愛するアーサーの性格と坂本の優しさが溶け合うように役を作り上げる。そういう演じ方をしているように見えた。だからこそ、坂本が演じる役は何を演じさせても坂本の身体に馴染むし、役に体温があるのだろう。

 桐山照史は今作が初見となったが、出てきてまず驚くのは発声の良さだ。台詞も歌唱もかなりのびのびと発声していて、存在感がありつつ聞き取りやすかった。芝居も、映像作品で多く場数を踏んでいるだけあって、意図したものを伝えられるような芝居であったと思う。ただ、なぜランスロットがグィネヴィアを愛していたのかが全くわからなくて、騎士道精神を信じるランスロットが騎士道精神に反する禁断の恋愛に至ったのかが伝わってこなかった。桐山自身がこの部分についてどのように理解しているのかはわからないが、古典作品は演じる上で役への理解度をかなり高めないと難しいんだろうなと思った。ただ、歌唱・発声といったスキル面は申し分ないので、もう少し桐山自身が共感できるような役だとかなり良いものになると思う。

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以下、雑感

・会場は日生劇場。ニューネームカミングスーンの東京の大劇場といえば帝国劇場、新橋演舞場、日生劇場だが、その中でもダントツで好きなのが日生。天井の装飾はアコヤ貝を使っているようで、上演前ずっと天井見てる。日生でずっと上を見ている人がいたら、私です。

・土日の夜公演を観劇したけど、かなり終演が遅かった気がする。と思って調べたら20時40分終演だった。ざっくり、桐山さんのファンは関西在住の人が多いんだろうなと思うけど、20時40分に日生の公演が終わって品川に行って関西に帰るのはめちゃくちゃ大変だろうなと、関西に住んでる友達が一人もいないのに心配した。

・以前坂本さんの何を見たのか全然覚えてない(お前は今まで食ったパンの枚数を覚えているか?)「凍える」は見てないけど、見ておけばよかったなーーー、、、

・名前だけの判断で観劇前まで唯月ふうかさんを元宝塚の人だと思っていたけど、観劇中に「あれ、この人宝塚じゃないかも」と思ったら本当に宝塚じゃなくてちょっと嬉しかった。うまく言語化できないけど宝塚の人の歌って一生宝塚の歌い方をする人が多い気がする。

・そいいえば、本当に入野自由がよかったな。「ンンンモrrルドレッドですよぉ〜〜〜!」声優さんらしい。え!?声優!?!?!?めちゃくちゃ舞台で名前を見るけど!?!?!?声優なのを本当に今知りました。へ〜〜〜〜〜そうなんだ〜〜〜〜〜千と千尋の神隠しでハクをやってた人らしい。私は漫画・アニメはエヴァとジョジョとテニプリしか分からないのですが、知ってるものが少なすぎるのってよくない気がしてきた。有名なものには触れておいた方が良いだろうけど、最近のアニメってなんかめっちゃ難しいじゃないですか…



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