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66 肉のないカレー

カレー粉を貰う

 カレー粉を「もう使わないから」と高齢の母から貰った。バーモントカレーの甘口と辛口。これを好みで混ぜて作ってきたと言う。90歳を目前にして母は料理を諦めたのだが、賞味期限前に使いきれない食材を、ちょくちょく私に「あげる」と言う。米や生玉子も貰った。
 妻はカレーを好きではない。子どもの頃から食べられず、「ご飯と漬物だけで済ませた」とか。
 カレーを嫌いな人はほとんどいない、と日本では考えられているようで、AC(公共広告機構)のテレビCMで子ども食堂を扱っているイラストでも、カレーっぽい食べ物が登場している。
 私が仕事でもプライベートでもよく行く地域は、神保町、神田、秋葉原であり、これはそのままカレー店の多い地域である。キッチン南海、ボンディ、エチオピア、共栄堂などはよく行った。それに限らず、カレーのチェーン店もあれば、そば・うどん店でもカレーはあるし、牛丼チェーンにもカレーはある。中華料理店にもある。いたるところにカレーがある上、インド、スリランカ、ネパールなどの専門店もあるし、タイ料理にもカレーがある。
 どのカレーが好きか、という問いはあっても、カレーが好きか嫌いかという問いはあまり発しないようだ。
 妻は、カレー粉を貰って、嫌々ながらカレーを作ってくれる。「よし、カレーだ、作るぞ」と。好きではないものの、カレー南蛮蕎麦、カレーうどんなら食べられるという。
 そして、出来上がったカレーに、「肉、忘れた」。

肉なしでもカレーはカレーだ

 子どもの頃に本当にあったことかどうかわからないが、「ぼくのには肉が入ってない」とか「肉ばっかり取って!」といった紛争の種としてのカレーが存在する。カレーと肉の関係は、肉ばっかり食べたい子どもにとっては重要なことだったのだ。
 しかし、肉のないカレーでも、カレーはカレーである。
 特に支障はないのである。
 実際、レトルトカレーの中には、ほぼ肉の存在のないタイプもある。店のカレーでも、「牛すじカレー」を食べて、かなりの確率でほぼ牛すじを感じないことがある。
 そもそも、インド料理のカレーには、豆カレーやほうれん草カレーなど、肉なしで美味しいカレーがある。別にビーガンでなくても、肉がなければカレーではない、とは断定できないのがいまの時代のカレーである。

美味しく食べて

 どんなカレーでも、美味しくいただければそれでいい。
 「ビーフ オア チキン」と言えば機内食を思い浮かべるが、カレーでも、専門店なら選べることが多い。肉の種類は、牛、豚、鳥、マトンが多い。さらに挽き肉のキーマなどもある。
 カレーは子どもながらに、肉と直面する存在である。
 人は肉を食べるか食べないかを選べるが、それは一種の通過儀礼かと思う。
 肉を食う人生と食わない人生は、きっと違う。
 そのことは、また考えてみたい。

 
 


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