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89 終わりの始まり

大谷選手の言葉とさまざまな寿命

 先日、MLBドジャースと契約した大谷選手だが、そのときに同時に、スポンサー企業の経営者と対談する場面などもテレビで流れ、結婚や子どもについても触れて「平穏」を求めていることが彼の口から出た。
 将来について幼い頃から具体的に描いてきた大谷選手の話は有名だが、それだけに、自分の人生の中で野球選手でいられる期間、いわば選手寿命についても真剣に見据えていることがうかがえる。
 29歳だったっけ。確かに、30代を前にしたとき、多くの人は少しは将来について考えるだろう。これまでのように終身雇用な感覚だったら、定年までいまの会社にい続けるのか、といったことも含めて。
 しかし、そうした設計は、簡単に崩れてしまう。修正を余儀なくされるものだとも感じているだろう。
 人間の寿命、ありとあらゆる物や事の寿命もそうだ。「10年保証」と言われた製品だって、数日で壊れることだってあるのだ。
 3.11を経験し、コロナ禍を経験し、そのほかいろいろな衝撃的なことを経験してきた人たちにとっては、その衝撃がいいことであっても悪いことであっても、やはり「寿命」について、漠然と思いを馳せてしまうに違いない。
 自分はいま生きている。だけど、あいつはなぜ死んだのか。そこにどんな違いがあったのか。こういうことは、結論を出すためではなく、考えたり思いを馳せることそのこと事態が大切な気がしている。

三鷹跨線人道橋の終わり

 先日、三鷹跨線人道橋の終わりが報じられた。まだ壊されてはいないようだが、一般の人の通行は終了となった。1929年、昭和四年に作られたJR中央線の上にかかる橋は、陸橋(りくばし)として親しまれていた。私はずっと「りっきょう」と読んでいたのだが、「りくばし」とも読むことを、このニュースで知った。
 作家・太宰治と縁が深いことから、大切にされてきた、というけれど、見たところ、あちこち痛んだまま放置されているようで、むしろ歴史的価値から下手な改修ができないままだったのではないかと勝手に推察する。
 そして、私の父は、同じ昭和四年生まれである。九十四歳。母は八十九歳。どう考えても、人生の終わりに差し掛かっていることは間違いない。
 寿命というものは、正直、まったくよくわからない。
 90年生きてきた人の明日死ぬ確率は、間違いなく29歳の野球選手よりずっと高いはずだ。少なくとも5年生存率で考えても、圧倒的に90代の人の確率は低いに違いない。あえて、統計などを参照する気にはならないけど。
 では、ひるがえって、まだそこまでは到達していないとはいえ、大谷選手より遥かに年齢を重ねている者はどうなのか。つまり、私だ。
 94歳の父親が100歳まで生きる可能性と、私が94歳まで生きる可能性を比較したとき、これといった持病があるわけではないけれど、なんとなく私の方が分が悪い気がする。

寿命の実績は比較しにくい

 どうして、比較的若いであろう自分と、90代の父親を比べて、自分の方が短命な気がするのか。
 世の中のたいがいのことは、実績で比較できる。しかし寿命は1回こっきりなので、結果的に長い生きした人がいたからといって、それが自分の実績には結びつかない。個々にまったく違う。
 もちろん統計的にはある程度のことは言えるだろう。それは、たとえば「毎日コーヒーを飲んでいる人は、飲まない人よりも少し長生きする」みたいな統計と同じで、正直、そんなことが、個々の人生を左右するとは思えないので、「信じるか信じないか」の違いになってしまうだろう。
 生まれたときから、死ぬことが決まっている。
 ただ、いつ死ぬかはわからない。すぐ死ぬ人もいれば、長生きする人もいる。病気、災害、事故など、人が死ぬ可能性は数え上げたらキリがない。「え、そんなことで!」と驚くようなことでも亡くなるし、あるいは「そんな目に遭ったのに」生き延びることもある。
 これまで、通算5匹の犬を飼ってきた。1匹目は、飼い始めて1歳になる前に腸炎で亡くなった(古い話なので当時、ペットの医療体制はとてもお粗末だった)。2匹目は長生きした。15歳ぐらいだろうか。3匹目も長生きした。17歳生きた。4匹目は保護犬で正確な年齢は分からなかったが6歳ぐらいと言われたのだが、我が家では3年で突然亡くなってしまった。そしていま5匹目。「余命半年」と言われた子犬がいま7歳で元気。
 まったく、寿命はわからないけれど、とにかく私たちは常に終わりの始まりを生きていることだけは確かだ。
 大谷選手の求める「平穏」は、私の望む「平穏」とはケタが違うのであろうけど、確かに、平穏っていうのも、悪くはないと感じる。だって、それは突然やって来ちゃうわけだから。

※偶然だが、2023年12月21日15時過ぎにこれを投稿してから、Xにも投稿したのだが、Xは大規模な不具合発生でタイムラインが見えなくなった。Twitterだった頃も含めてこれだけ大規模なダウンは珍しい。不吉な原稿を書いてしまったかな。30分ほどで直ったみたいだけども。


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