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学問は一人閉じこもってするものではない|齋藤孝が読み解く『学問のすすめ』

明治初年に刊行された福澤諭吉の『学問のすすめ』には、現代を生きる私たちの心にもダイレクトに響く言葉が散りばめられています。ここでは、教育学者としておなじみの齋藤孝先生の新著図解 学問のすすめ―カラリと晴れた生き方をしよう(ウェッジ、3月18日刊行)から抜粋してお届けします。今回のテーマは「他人とのつきあい方」です。

すすめ書影

≪原文≫
「人の性は群居を好み、決して独歩孤立するを得ず。(……)広く他人に交はり、その交りいよいよ広ければ、一身の幸福いよいよ大なるを覚ゆるものにて、すなはちこれ人間交際の起こる由縁なり。」
「およそ世に学問といひ、工業といひ、政治といひ、法律といふも、みな人間交際のためにするものにて、人間の交際あらざれば、いづれも不用のものたるべし。」(第九編)

≪現代語訳≫
そもそも人間の性質というのは集まって住むことを好んで、決して一人で孤立してはいられないものだ。……広く他人と交際して、その交際が広くなればなるほど、自身の幸福も大きくなるのを感じるものであって、これが人間社会が生まれた所以である。
およそ、世の中に学問といい、工業といい、政治といい、法律というのも、みな人間社会のために存在するのであって、人間社会がなければ、いずれも不要のものである。

人は孤立しては生きていけない
集まって互いに交流するのが人間社会だ

人は、互いに交わることが、いかに大切であるか、という話です。

「人間(じんかん)交際」は「人間(にんげん)交際」と読むこともありますが、「世間」「社会」という意味です。人と人との間の交わりから社会ができてくる。「交際」とは元の言葉が「society =ソサエティ」でしょう。「ソサエティ」は「社会」と訳しますが、そうした意味だけでなく、「世間の交際」といった意味もあります。パーティーなどを開くのも、ソサエティのイメージですね。人と人の交際が非常に重要ということです。

「およそ世に学問といひ……」は、学問や工業、政治、法律といろいろあるけれど、それはすべて人間のソサエティ、世間の交際を滞りなくするためのものなのだ、ということです。ここで確認しているのは、人と人が広く関わってさまざまなことをしていく、それ自体が目的なのだ。文明が発達すればするほど、交際も盛んになっていくべきである、ということです。

そして、学問をすること、勉強することが、世間の人と広く交際をすることと直結しています。これが福澤諭吉の学問のイメージなのです。

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学問は一人閉じこもってするものではない
人間同士が広く交際して高め合うためのものだ

ふつう、勉強するというと、何か一人でずっとこもって本を読んだりして、交際があまり得意ではない人のイメージですね。たとえば「大学院で勉強しています」というと、あまり社会と交際していないような感じがします。

ところが福澤は、そうした状態が学問なのではなくて、もっと生きた学問でなければいけないというのです。

社会というものは、人が他のさまざまな人たちと交わって、お互いを知っていくところだ。そして社会は交際が盛んになればなるほど活性化する。

そのときに人は学問をして、そのレベルの高い状態で、人間同士の交際をしていく。そういう人を増やしていこう、そして社会をより豊かにしていこう、と呼びかけているのです。

——福澤諭吉は『学問のすすめ』の中で、人権や男女平等の大切さを説き、悪弊は断つべきだと力強く訴えています。いまなお色濃く残る差別などの問題を前に、私たちは福澤の言葉からもう一度学ぶべきかもしれません。詳しくは本書をご覧ください。

ウェッジ様 齋藤孝 写真 正面 ブルーネクタイ

齋藤孝(さいとう・たかし)
明治大学文学部教授。1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程を経て現職。専門は、教育学、身体論、コミュニケーション論。『1日1ページ、読むだけで見につく日本の教養365』(文響社)、『友だちって、なんだろう?』(誠文堂新光社)等、著書多数。

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