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水槽に泳ぐ魚を見ながら泊まることができる水族館「国立海洋生物博物館」|『旅する台湾・屛東』より

台湾リピーターの日本人にもまだあまり知られていない屏東。そんな屏東に魅せられた作家たちが語り尽くす貴重な旅エッセイ&ガイド旅する台湾・屏東が11月20日に発売されます。ここではその内容を一部、特別に転載します。今回は作家の一青ひととたえさんが、宿泊できる水族館として人気の「国立海洋生物博物館」を訪れます。

旅する台湾・屏東
一青妙 著 , 山脇りこ 著 , 大洞敦史 著
2023年11月20日発売

 台湾人の魅力のひとつに、柔軟な発想がある。「泊まれる水族館」、いかにも台湾らしい。屏東県車城にある「国立海洋生物博物館」がそれだ。通年のサービスなので、夏休みや冬休みになれば、いつも子供たちでいっぱいになる。

 屏東でしか経験できないことだ。早速申し込んでみた。

 閉館後の館内に到着すると、ガイドが丁寧に水槽を泳いでいる魚たちを紹介してくれる。縦長の大きな水槽は、海の深度によって生息する魚の種類が異なることがわかる。夕食を挟み、今度はバックヤードの見学。巨大な水槽を真上や裏側から見る。餌やりもでき、子供たちは大興奮。私は、初めてサメの卵が硬い殻でできていることを知って驚いた。

 ひと通り解説が終わると、自由時間になる。シャワーを浴びたり、気になる水槽をもう一度見に行ったり、外に出て星を眺めたりして、思い思いに過ごしているうちにいよいよ就寝時間だ。

 寝る場所は、申し込み時に、サメやシロイルカ、ペンギンのいる北極など、希望のゾーンを決める必要がある。私は、頭上に魚が泳ぐ姿を眺められる海底トンネルゾーンを希望した。

 敷布団と布団、枕がワンセットになった大きなビニール袋を渡され、指定の場所に行き、各自寝床を準備する。これだけでも、なんだか修学旅行みたいでワクワクする。横になると、真上でいろんな種類の魚が忙しく泳いでいた。みんな同じ向きなのに、流れに追いつかず、我が道を泳ぐ魚もいる。ひときわ優雅に泳いでいるのはマンタだ。ポコポコと流れる水の音が心地よい。深夜に目を覚ますと、魚たちも眠たいのか、泳ぐ速度が遅くなっていた。偶然にも、お腹に小判鮫を付けた大型魚がずっと止まっていた。絶対に離れまいと吸盤のようにへばりつく姿が気になって眠れなくなった。

 博物館の目の前は台湾海峡だ。翌朝は、ガイドと一緒に潮間帯を散策し、珊瑚礁やヤドカリを探しに出かけた。季節によっては、陸ガニにも出会えるというが、今回は脱皮したものしか見つけることができなかった。

 告白すると、あまり動物に興味がない私だが、海底トンネルでの一泊は、まるで海の中で過ごした気分になり、魚と一緒に眠るという非日常は、屏東での忘れ難い思い出となった。

文・写真=一青妙

◉國立海洋生物博物館
屏東県車城郷後湾路2号
電話:08-882-5678
https://www.nmmba.gov.tw

◇◆◇ 本書のご紹介 ◇◆◇

旅する台湾・屏東
一青妙 , 山脇りこ , 大洞敦史 著
2023年11月20日発売

台湾リピーターの日本人にもまだあまり知られていない屏東。人、食、文化、様々な側面で「台湾らしさ」を感じられる場所である。そんな屏東に魅せられた作家たちが語り尽くす貴重な旅エッセイ&ガイド。読めば必ず屏東を訪れたくなるはず!

<本書の目次>
第1部 屏東に息づく日本(一青妙)
 第1章 懐古の街を訪ねて
 第2章 何者かになりたくて
 第3章 屏東のなかの「日本」
 第4章 歴史を知り、未来を考える

第2部 屏東の食を訪ねて(山脇りこ)
 第5章 屏東で食べる
 第6章 屏東の味を支える調味料
 第7章 大地と海からの恵み
 エリア別屏東のおいしいお店

第3部 異文化に出会う(大洞敦史)
 第8章 海を愛する人々
 第9章 山に生きる人々
 第10章 土地に深く根差すアート
 第11章 客家の文化に親しむ

一青妙(ひとと・たえ)
台湾屈指の名家「顔家」出身の父と日本人の母との間に生まれ、幼少期は台湾で育ち、11歳から日本で暮らし始める。作家、女優、歯科医として活躍中。台南市親善大使や中能登町観光大使に相次いで任命されている。著書に『私の箱子』(筑摩書房)、『「環島」ぐるっと台湾一周の旅』(東洋経済新報社)など。

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