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名庭で知られる清水寺・成就院で奉納 花に願いを託して|花の道しるべ from 京都

花にまつわる文化・伝統芸能などを未生流笹岡・華道家元の笹岡隆甫さんがひもとく連載コラム『花の道しるべ from 京都』。第17回では、自粛期間中人前で花をいける場をなかなか持てなかったという笹岡さんは、一昨年の12月に清水寺・じょうじゅいんで大きな花を生けられたのは幸せなひとときだったと振り返ります。

12月に入ると、早々に正月花の稽古が始まる。家元には教授者が指導方法の勉強に来るのだが、中旬から下旬にご自身の稽古場で指導をする前に、正月花を復習しておくわけだ。若松や万年青おもとを「せい」と呼ばれる型にととのえるのが定番。江戸時代後半に流行したいけ方で、「天」「地」「人」を象徴する高さの異なる3本の枝で構成される。

3本の枝で構成されるいけばなの型「生花」にととのえられた若松

もちろん、生花以外にも、様々ないけ方がある。ようまつに金銀の水引をかけてせんりょうやバラを合わせれば、正月らしい華やぎを演出できるし、茶の湯のしきたりに従い、たれ柳を輪にして白椿を添えるのも品があってよい。干支やうたかいはじめちょくだいにちなんだ作品に挑戦する教授者もいて、新年が目の前にやってきたようなめでたい気分になる。

千両の赤い実。冬に赤い実をつけることから、南天、万両と共に古くから縁起物とされてきた

清水寺成就院、京都を代表する庭園を臨む座敷で献花

全国旅行支援の効果もあってか、京都にも賑わいが戻ってきた。紅葉シーズンとも重なり、「清水の舞台」で知られる清水寺は大勢の参拝客で溢れる。観光のイメージが強い清水寺だが、現代アートの展覧会、著名アーティストによる奉納舞台、ハイブランドのレセプションなど、様々な試みを行っており、文化・芸術の発信地でもある。山内に、じょうじゅいんというたっちゅうがある。高台寺山を借景とした庭園は「月の庭」と呼ばれ、京都を代表する名庭だ。

清水寺成就院庭園「月の庭」 

感染状況が少し落ち着きを見せた一昨年の年末、この成就院で、いけばなを奉納させていただく機会を得た。メディアを通してではなく、対面で大きな作品をいける過程をご覧いただくのは久しぶりで、貴重なひとときだった。舞台は月の庭に臨む座敷。枝ぶりのよい梅の古木が手に入ったので、扇に見立てた大ぶりの器に合わせることに。梅のつぼみを加えることで老若の対比を表現した。梅の足もとには、赤い実の南天を加えた。実と同じくらい真っ赤に色づいた南天の葉は鮮やかで、ひときわ目を引く。困難を転じて、幸せになるようにとの思いを託した。

清水寺・成就院、月の庭を臨む座敷で奉納された作品。中央は紅白の大輪のダリア
清水寺成就院

文化庁移転を前に、京都市の全小中学校で茶道・華道体験を開始

来年3月に文化庁の京都移転を控え、京都から文化を発信する取り組みが加速している。京都市では、令和元年度から市立小・中学校での伝統文化体験事業をスタートさせているが、段階的に実施校を拡大し、今年度全校実施がかなった。今後はすべての児童生徒が在学中に一度は茶道・華道を体験することになる。いけばなは、命にじかに触れる唯一の伝統文化だ。花を通して、命の大切さや自然への感謝を改めて見つめ直す機会にしてもらいたいと願っている。私が担当した学校では、「落ち着きがなく、普段一緒に授業を受けられない生徒も、華道体験は集中して受講できた」「学校へ足が向かない不登校生徒が2人、華道体験だからと顔を出してくれた」などと嬉しい報告も受けた。

京都の食文化 脱炭素に向けた取り組みを

食も文化である。昨年、京都から脱炭素ライフスタイルを推進する「2050京創ミーティング」に参加した際、パラアスリートの一ノ瀬メイさんより、「食肉消費を7割減らせば、温室効果ガスを大幅に削減できることを知り、ヴィーガンに取り組んでいる。身体づくりにも有効であり、学校給食を環境について考えるきっかけにしてほしい」という提案をいただいた。教育委員会にお繋ぎして検討を進め、11月の「京都市小学校給食献立表」に、【地球にやさしい食事について考えてみよう!】として掲載された。「旬の食材を取り入れる」「地産地消を心がける」「食材を無駄なく使う」「植物性食品を取り入れる」といった食に関する脱炭素に向けた取組の大切さを、小学生や保護者の皆様へ伝えることができた。

一つ一つの取り組みは決して派手ではないが、少しずつ着実に前に進んでいる。様々な文化が生活に根付く京都。全国の手本となれるよう、これからも先駆的な試みを続けていきたい。

文・写真=笹岡隆甫

「京の冬の旅」非公開文化財特別公開
清水寺 成就院 「月の庭」

2023年2月1日(水)~3月19日(日)
※2月22日(水)・23日(木・祝)は拝観休止
[時間]10:00~16:30(16:00 受付終了)
[料金]600円
*全15件の特別公開
詳細は下記HPをご参照ください。
■京都観光オフィシャルサイト
https://ja.kyoto.travel/specialopening/winter/

笹岡隆甫(ささおか・りゅうほ)
華道「未生流笹岡」家元。京都ノートルダム女子大学客員教授。大正大学 客員教授。1974年京都生まれ。京都大学工学部建築学科卒、同大学院修士課程修了。2011年11月、「未生流笹岡」三代家元継承。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し、2016年にはG7伊勢志摩サミットの会場装花を担当。近著に『いけばな』(新潮新書)。
●未生流笹岡HP:http://www.kadou.net/
Instagram:ryuho.sasaoka
Twitter:@ryuho_sasaoka

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