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在野研究一歩前(11)「"在野研究者"は"インディーズリサーチャー"なのか?~インディーズバンドとの比較から考える~(2)」

今回の「"在野研究者"は"インディーズリサーチャー"なのか?~インディーズバンドとの比較から考える~」は、以下の四部構成で論述していく。

1.はじめに
2.「インディーズ」とはなにか?
3.在野研究者とインディーズバンドの共通点・相違点
4.おわりに

 今回は(2)ということで、以下より「2.「インディーズ」とはなにか?」を始める。

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 前章「1.はじめに」では、私が「"在野研究者"は"インディーズリサーチャー"なのか?」という疑問を抱いたきっかけを記した。この疑問について考えていく上で、まず、私と友人の間で幾度となく使われたワード「インディーズ」の定義について簡単に確認しておこうと思う。
 「インディーズ」という言葉は、音楽業界以外でも使用される言葉である。例をあげると、

 映画業界⇒インディーズ映画(所謂、自主映画)(1)
 演劇業界⇒伝統演劇に対するアングラ演劇
 ゲーム業界⇒インディーズゲーム(2)


などがある。映画やゲームでの例のように、直接「インディーズ」という言葉を頭に付ける場合もあれば、演劇業界のように「ある領域」(つまりここでは「伝統演劇ではないもの全般」)を指す際に使用する場合もある。
 今回私は「音楽業界」に絞って、「インディーズ」の定義について見ていくことにするが、あと一つ範囲を「絞る」必要がある。
 それは「日本」という範囲である。他国での「インディーズ」と日本のそれとでは異なる点が幾つもある。その「異なる点」とは何なのか? そのことも含めて、「インディーズ」の定義について考えていきたい。

 日本の音楽業界における「インディーズ」は、1980年代初頭に登場した形態で、アマチュア・アーティストが自作のCDを売るためだけに作る個人組織から、独立系レコード会社とくらべてもなんら遜色のない大規模な組織まで(3)、一形態の中にも幅広いバリエーションが存在している。ここで注目したいのが「独立系レコード会社」という言葉である。
 「独立系レコード会社」は「大手レコード会社」と比較して使われる。そこにはどんな違いがあるのか。まずは「大手レコード会社」が備える機能を見ていく。「大手レコード会社」では「管理部門はもちろん、制作から宣伝までの業務が組織的に行なわれるとともに、全国の営業所を拠点に販売活動が展開され、営業部門を持たない他社商品の販売も受託代行している」(4)。また、企業によっては「CDをプレスする製造工場までを所有し、すべての機能を自社で持つ」(5)場合もある。つまり、「大手レコード会社」は、商品の管理、制作、宣伝、販売活動、受託代行(ときに製造)といった、あらゆる機能を備えているレコード会社のことを指すのである。
 一方「独立系レコード会社」はというと、上記の機能のうち「制作、宣伝」の業務を中心とする。そのため、商品の営業活動については、(先程示したように)「大手レコード会社」と販売代行契約を結ぶことによって機能を補填していると言える。
 以上のように見ていくと、音楽業界で「作品(商品)」を実際に流通させようと思えば、様々な機能を有する「大手レコード会社」を通すことなしには果せない現状が確認できるだろう。
 音楽業界での一形態である「インディーズ」は、「大手レコード会社」さらには「独立系レコード会社」に所属・依存することなく、自身の「作品」を発表する。そこに「困難」が付きまとうことは、明白である。そう考えると、自身の「作品」を多くの人に知ってもらいたい/届けたいと思えば、(確かに現代では、Youtubeやツイッターなどを駆使して、自力で発表&拡散する手段はあるけれども)いちはやく「インディーズ」の形態から抜けて、ある程度規模の大きい「レコード会社」への所属を目指すことになる。ここで、私たちがよく耳にする「プロデビュー」という言葉が生じるのである。

 以上、「インディーズ」の定義を、「独立系レコード会社」「大手レコード会社」との比較で説明した。ここで上述にあげた「他国での「インディーズ」と日本のそれとでは異なる点が幾つもある」についても簡単な説明を加えたい(「他国」というと範囲が大きいので、以下では一つの例として「米国」を取りあげる)。
 米国で「インディーズか、そうでないか」を決定する基準は、「三大メジャー=ユニバーサル、ソニーミュージックエンタテインメント(SME)、ワーナーミュージック」とその下部レーベルに所属しているか/いないか、となっている。
 つまり纏めると、米国では日本よりも「インディーズ」の形態にある音楽関係組織(音楽関係者)は多いということになる。

(註)
(1)「インディーズ映画」については、Christine Vacho,Shooting to Kill (America: William Morrow Paperbacks, 1998)を参照。また、日本での「映画業界」の現状を確認できる書籍として、四方田犬彦『日本映画史110年』(集英社、2014)がある。
(2)「インディーズゲーム」については、徳岡正肇編著『ゲームの今 ゲーム業界を見通す18のキーワード』(SBクリエイティブ、2015)を参照。
(3)三野明洋『よくわかる音楽業界』(日本実業出版、2002、P70)を参照。
(4)同上、P65から引用。
(5)同上、P65から引用。

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 以上で「2.「インディーズ」とはなにか?」を終ります。次章では、本章で述べてきた「インディーズ」の定義に沿って、「インディーズバンド」と「在野研究者」を比較していきたいと思う。

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