見出し画像

在野研究一歩前(12)「"在野研究者"は"インディーズリサーチャー"なのか?~インディーズバンドとの比較から考える~(3)」

 今回の「"在野研究者"は"インディーズリサーチャー"なのか?~インディーズバンドとの比較から考える~」は、以下の四部構成で論述していく。

1.はじめに
2.「インディーズ」とはなにか?
3.在野研究者とインディーズバンドの共通点・相違点
4.おわりに

 今回は(3)ということで、以下より「3.在野研究者とインディーズバンドの共通点・相違点」を始める。

           *

 前回の「2.「インディーズ」とはなにか?」では、そもそも「インディーズ」とはどういう意味なのか、音楽業界での用例を中心に取り上げ、解説した。そこでの「インディーズ」の定義を踏まえると、今回「在野研究者」と比較することになる「インディーズバンド」は、自作のCDを販売したり、自作の音楽をインターネット上で発表する、または「大手レコード会社」「独立系レコード会社」ほどの機能は持合わせていないが、ある程度の規模をもった組織に所属して、活動しているアーティストであるということができる。

 在野研究者とインディーズバンドを比較していく前に、まずは「あるアーティストの一曲のMV」について簡単に触れておきたい。「あるアーティスト」とは「ASIAN KUNG-FU GENERATION」であり、「一曲のMV」とは「『藤沢ルーザー』という曲のMV」を指す。

 『藤沢ルーザー』のMVは次のようなストーリーになっている。
 ある男性に会社からの内定通知が届く。そこで人生の選択として①「会社員コース」か②「バンドコース」のどちらかを選ばなければならない状況となる。そこから、「もし○○コースを選んだら」という想定で、どのような困難が待ち受けているのかを、「1nd STAGE」~「4th STAGR」に分けて描き、最後にGOALとして「マイホーム、マイカー、美しい女性」が設定されている。
 ①会社員コースと②バンドコースでは、それぞれにどのような「STAGE」が設定されているのかを以下に列挙する。

●1st STAGE⇒①「満員電車」②「風雨の路上ライブ」
●2nd STAGE⇒①「超過残業」②「過酷なツアー」
●3rd STAGE⇒①「派閥選び(独立、社長派、専務派から選ぶ)」②「メジャーデビューへの道」
●4th STAGE⇒①「部長職(リストラが追いかけてくる)」②「ゴールドディスク(ストレスが追いかけてくる)」

 このMVが伝えていることは、会社員コースを選ぼうとバンドコースを選ぼうと、それぞれに違った困難が待ち受けていて、それに懸命に抗っていくことで人間は成長していくということである。私がこのMVに初めて触れたときはまだ20歳に遠く満たない一学生で、いまいちピンとこなかったが、いま見れば強く心に響いてくる。

 私が今回このMVの中で注目したいのは、②の3rd STAGE「メジャーデビューへの道」である。ここから分かることは、それまでのSTAGEにいた男性はおそらく「インディーズバンド」として活躍しており、以後何かしらのレコード会社に所属して活躍していく段階にあるということである。つまり言い換えると、ある男性が「バンドコース」を想定したとき、そこには必然的に「メジャーデビュー」することが組み込まれているということである。この点は、次に在野研究者とインディーズバンドを比較していく上で重要になってくる点であろう。
 それでは以下より「在野研究者」と「インディーズバンド」の比較を行っていくが、それは「A.所属」「B.活動内容」「C.目標」の三点を中心として見ていく。

A.所属
 まず「所属」について考えたい。「インディーズか、そうでないか」は、これまで見てきた通り、ある程度規模のあるレコード会社に所属しているかどうかによって判断される。「インディーズバンド」の中にも、何かしらの組織に属しているものもあれば、単独で音楽活動を展開しているものもある。
 「在野研究者」の場合はどうだろうか。「在野研究者」が自身の「研究(論文)」を発表しようと考えたとき、ある学会に所属して、そこが発行する雑誌に投稿して発表するという方法もあれば、自身で立ち上げたブログなどに文章を掲載するという方法もある。
 つまり「在野研究者」においても、「インディーズバンド」と同様に、組織に所属して作品を発表することもできれば、特に組織には属さず自力で発表することもできるのである。この点で、「在野研究者」と「インディーズバンド」には、共通したものがあると言っていいだろう。

B.活動内容
 「A.所属」の中でも触れたが、両者に共通しているのは、活動内容が「作品を発表する」というものであることだ。ただ、その「作品」が持つ機能や、「発表」の仕方に違いが見いだせる。
 在野研究者の「作品」つまり「研究(論文)」には、ある程度の公共性が求められるということができる。つまり、「研究(論文)」は、他の研究者からどれだけ引用・参照されるかによって真価が判断されるということである。
 一方、インディーズバンドの「作品」つまり「音楽」は、勿論ある一定の人種に対する排他的なメッセージが含まれる音楽は作らないといった「公共性」は必要だが、他の音楽家に引用・参照されるかどうかで真価が判断されるということは少ない。
 「発表」の仕方については、在野研究者においては「学会発表」、インディーズバンドにおいては「ライブ活動」など、発表する内容に応じた形態が存在する(ここには「生」で自身の作品を発表するという共通点があることにも注目したい)。

C.目標
 在野研究者とインディーズバンドの違いは、この「目標」において強く現われる。
 先程取り上げた「『藤沢ルーザー』のMV」でも示されていたように、インディーズバンドの目標には、「メジャーデビュー(≒プロデビュー)」することが、当然の段階として想定されている。つまり、極端な言い方をすれば、インディーズバンドの目標の内には、「インディーズバンドから抜け出す」ことが大きな比重を占めているのだ。
 一方、在野研究者の場合は、確かにある学術機関(大学や博物館など)に所属して、そこのスタッフ(教授、講師、学芸員など)として働くことを目標としている人もいるだろうが、それが「在野研究者」全体においてもそうであると言うことはできない。あえて「在野研究者」として「研究」することを望む場合もあるからだ。つまり、在野研究者の目標の内では、「在野研究者から抜け出す」ことが大きな比重を占めているわけではないのである。
 ただ、「インディーズバンド」と「在野研究者」において、「メジャーデビューすること」「学術機関に属する研究員になること」という目標が設定される背景には、一番に「経済的な理由」がある。どちらの活動も、余裕のない経済状況の中で行なわれることが多いため、そこから「抜け出す」ことを目標とするのは「当然」であるとも言えるだろう。

 以上「所属、活動内容、目標」の三点から、在野研究者とインディーズバンドの比較を試みてみた。ここで明らかになった幾つかの共通点・相違点については、次稿「4.おわりに」の中で纏めていきたいと思う。
 今回もお読み頂きありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?