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【ココロコラム】やった人の勝ち~情報過多の時代、行動に移した人が強い~

現代は情報過多です。何をやるにしても、すぐに手元の端末一台で調べられます。一昔前に比べて、ものごとの周辺の情報が簡単に手に入ります。食べたことのないレストランでも、料理が写真付きで分かったり、行ったことのない場所でも、いくらでも風景がわかったりします。

これがいいことばかりかというと、私は必ずしもそうは思いません。便利は便利ですが、人間はものごとの周辺の情報を調べて、特に視覚情報を得ると、そこで満足してしまう傾向にあるからです。たとえば、海外旅行に行きたいとします。1時間ぐらいかけて、あれこれ端末で調べてみると、けっこう情報が得られて、その土地に詳しくなるでしょう。すると、なんだかワクワク感が少し消えてきたような気がしないでしょうか。それは、未知のものへの好奇心が失われてしまったからです。

好奇心がなくなると、あらかじめ知っているものとの違いの確認ということになってしまい、ものごとのスリルは大幅に減ります。スリルがなければ、何もしなくても同じということで、ひたすら情報をためこんでいたほうがいいということになってしまいがちです。

これは、何の分野にしても同じことで、事前に情報を調べすぎて、実際には何もしていないのに、頭でっかちに妙に情報だけに詳しい評論家タイプの人間ばかりが増えていっている気がします。みなさんのまわりにも、恋人がいないのに恋愛通を気取る人とか、たいして服を持っていないファッション通とか、仕事ができないノウハウ屋のような人がいるかもしれません。これは、情報過多時代の一つの弊害です。

私も発信している側なので、こんなことを言うのも心苦しいものがありますが、特に文字情報は、もはや誰でも簡単に発信できます。「仕事ができるようになる方法」「もてる方法」「友達を作る方法」。自分のコンプレックスの克服法は、ちょっと探せばたくさん見つかることでしょう。

しかし、問題はその文字情報を読んだ後なのです。人間は、文字情報をはじめとする視覚情報を目にすると、なぜかそこでいったん行動が止まります。脳がゆっくりクールダウンしてしまうのです。そこでストップしてしまうと、結局情報だけを手に入れて、何もしなかったということになります。この「情報だけが入ってきて、何も行動に移せない」状態の人が多すぎると思いますし、これがいろいろな行き詰まりの原因になっていることが多々あるように思えます。

この状態を防ぐためには、どんな小さなことでも、たとえ一つでもいいから、やった人の勝ちという平凡な原則をもう一度確認しておきたいものです。100のノウハウや評論より、一つの実行です。現代はとにかく、そんな小さいことをやっていてもしかたがないだろうというような外野の声がうるさいご時世です。しかし実際には、小さいことをやり続けている人のほうが強いように思えてなりません。誰が何を言おうが、やった人のほうがえらいのです。

もうひとつ大事なことは、視覚以外の感覚を大事にすることです。見ただけで分かるものにはしょせん限界があります。目にするだけではなく、耳で聞いたり、手で触ってみる。あるいは実際に歩いてみることが大切です。どうも、携帯端末が普及してから、感覚の中で視覚が優位になりすぎているきらいがあるように思えます。意識してそれ以外の感覚を使うようにしたいものです。

(精神科医・西村鋭介)


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