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【ココロコラム】引っ込み思案について

世の中、引っ込み思案で困っている人がけっこういます。慎み深く、落ち着いていて、いいことだともいえますが、どうしても身の回りの積極的な人と比べると、「自分は消極的だ」と劣等感を感じたり、人間関係で損をすると思うことがあるかもしれません。今回は引っ込み思案を少しでも解消する方法を考えましょう。

尊敬している人や、こうなりたいなあと思う人をメンターといいます。就職活動などでおなじみの用語です。引っ込み思案を克服する最初のステップとして、身の回りのメンターを探してみましょう。全部まるごとその人のようになれなくても、ある場面ではこう行動したいと思うような人がだいたいいるものです。漠然と全般的に劣等感を覚えるのではなく、目標となる人を見つけ、その人のよいところを少しでも取り込んでいくほうが、実は楽なのです。そのほうが、目標が具体的になるからです。

次のステップは、その人をよく観察します。人付き合いの上手な人は、しゃべる内容や量だけではなくて、物腰や視線など、非言語的コミュニケーションもそれなりの技術を持っています。表情が豊かだったり、しっかり相手の目を見て話していたり、うまく相づちを打っていたり、どこかに秀でているところがあります。「なるほど、この人はこういうところが魅力的なのか」と感じる部分がいくつか見つかるはずです。

人間や性格といった漠然とした問題ではなく、話し方やふるまい方といった、具体的な要素に分けて考えるのがコツです。ここでも、あくまで性格や人格のよしあしではなくて、「ある要素」を見ているだけだと思うことが大切です。

観察がある程度できたら、その要素を真似してみましょう。といっても、ずっと真似していては疲れます。一日三十分や一時間で十分です。まずは、鏡などを使って一人で話し方などを練習する。ある程度続いたら、今度は人前で試してみる。これも、短時間でOKです。「大丈夫」「何も考えない」など、自分に言い聞かせ、思い切って実行に移してみましょう。うまくいく、いかないは二の次です。失敗しても全然かまいません。人前でなにか練習したことを、会話に使えたこと自体が、大きな成果です。充分に自分を評価してあげましょう。

一方で、他人が自分をどう思っているかを、できる範囲で情報を集めてみましょう。「私の話し方ってどう思う?」などと、家族や親しい人に何人か聞いてみるのをおすすめします。ここでも、性格を聞くより「話し方」や「物腰」など、行動を聞くようにしましょう。性格を聞いても、本当の答えが返ってくるとは限りません。行動なら、率直な意見が聞けるものです。他人に自分をどう思っているか聞いてみると、自分が思っている欠点が、他の人は全く気にしていないというようなことが、非常に多くあります。これに気づくと、ずいぶん精神が楽になるものです。

引っ込み思案な人ほど、自己否定的な考え方をしていることが多く、欠点を過大評価してしまいがちです。そもそも、自分で思っているほど、他人は欠点を見ていないものですし、同じように欠点を抱えた人でも、堂々と行動している人はたくさんいます。特に、引っ込み思案の場合は、他人と会話をしていれば、自然と技術も身につくし、コンプレックスも軽くなっていく場合が多いのに対し、遠慮がちに過ごしていると、ますます不安が増し、さらに受け身なあり方が助長されてしまう側面が大きいのが特徴です。うまくやっている人を見つけ、短時間でいいから真似をしてみる。行動で克服するのが、回復の近道です。

(精神科医・西村鋭介)

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