掌編小説●【空を見上げるときに】



〈David Bowie『Space Oddity』を基に〉







管制より空日和 和尚さまへ



管制より空日和 和尚さまへ


お鈴をお鳴らしください 一度でけっこうです




管制より空日和 和尚さまへ


ありがとうございます よく聞こえました


秒読み開始 エンジン点火


点火を確認 仏のご加護を





管制より空日和 和尚さまへ



おめでとうございます 打ち上げに成功しました



十穀絶ち 木食修行 千日 入定 千日 

ほんとうにお疲れさまでした

お母さまも和尚さまのことをとても誇りに思っていらっしゃいます

小さなころから何事にも驚くほどすぐれて 
やさしくて いつも微笑んでいて 自慢の息子だと

でも ただ たった一度くらいは
子どもらしいわがままで困らせてほしかった と


世界の宗教界も和尚さまの壮挙にきっと驚くことでしょう



いよいよカプセルを切り離します


空日和より管制へ

たくさんの星が見えます 地上にいたときとはまったく違います


はるか上から青い地球を見ています


私が結界を張ってこの地球を守ります 

宇宙の悪意から 永遠に 生き仏となって


それからできることはもうありません


母に伝えてください 心からの感謝と

私は泣いているのでも笑っているのでもなかったと



管制より空日和 和尚さまへ


何か…… 何が…… 何が起きているのですか?


空日和 和尚さま 聞こえますか?

応答ねがいます、空日和 和尚さま


こちらの声が届いていますか?


空日和 和尚さま 

こちらの声が聞こえましたら

お鈴をお鳴らしください



いまわたしは地獄のまわりを漂っている


月のはるか真上


そこから青い地獄を眺めている


わたしにできることはもう何もない


空日和 和尚さま


泣いているのでも笑っているのでもない

できることは もう何もない


空日和 和尚さま 空日和 和尚さま 

空日和 和尚さま……


                            (了)


次回作もお楽しみに。投げ銭(サポート)もご遠慮なく。


無断流用は固くお断りいたします。

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