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フランク・ハーバート著「デューン 砂の惑星」〜詩情豊かなSFの名作

この秋は、あまり多くの本を読めなかった。その理由の一つは、フランク・ハーバートが書いたSF小説の大作「デューン 砂の惑星」(ハヤカワ文庫SF)に取り掛かっていたから。「デューン 砂の惑星」が初めてハヤカワ文庫として出版されたのは1972〜3年、矢野徹の翻訳でカバー絵を石ノ森章太郎が描いた。書店に並んだこの作品、読もうか読むまいかいつも悩んでいて、最終的には続編も含むボリュームに尻込みしていた。

映画「DUNE/デューン 砂の惑星」を観たことを書いたが、これを機に積年の宿題を解決することにした。おりしも、2016年に早川書房は創立70周年記念作品として酒井昭伸訳の新訳版を出版していた。“デューン・サーガ“の第一作「デューン 砂の惑星」、上中下三巻に取り組んだ。

1965年に発表されたこの作品が描く宇宙は、皇帝を中心として、様々な貴族家などが微妙なバランスで共存する世界である。“デューン 砂の惑星“とはアラキスという名の星のことで、この星においてのみ抗老化作用を持つメランジという香料が産出される。宇宙の構成員全てがこのメランジを必要としており、アラキスはハルコンネン男爵家が永年支配してきた。

主人公のポールは、アトレイデス公爵家の世継ぎ。アトレイデス家とハルコンネン家とは敵対関係にあるのだが、皇帝はアラキスの施政権をハルコンネンから取り上げ、アトレイデスに移封を命じる。重要資源を独占するアラキスへの移住は、アトレイデス家の勝利に見える。しかし、砂漠に覆われた惑星での生活、現地民族フレメンへの対応は簡単なものではない。ポールとその父レト・アトレイデス公爵、ポールの母で公爵の愛妾レディ・ジェシカの行手には何が待ち受けているのか。

レディ・ジェシカは“ベネ・ゲセリット“という女性集団に属し、修業を通じ特殊な能力を体得しており、ポールはその血を受け継いでいる。そのベネ・ゲセリットの教母である老婆は、出発間近のポールに「わがゴム・ジャッバールに対峙してもらわねば」と言い残す。

このように、「デューン」では聞いたことのない言葉が次々に登場する。これらを生み出した作者もすごいのだが、最初は若干戸惑う。しかし、読み進むうちにこれらの造語でなければ「デューン」の世界が描けないことが分かってくる。なお、下巻の最後に用語集が掲載されている。

「香料メランジー砂の惑星ー現地民族フレメン」と並べると、何かを連想するではないか。「石油ー砂漠の国ーアラブ民族」。ちなみに、第四次中東戦争を受けてオイルショックが発生したのは、本作発表の8年後、1973年である。

読みようによっては、現実世界の縮図のようにも見えつつ、壮大な創造上の宇宙物語が展開される。そして、そのスタイルは詩情あふれるものになっていて、面白いだけのSFストーリーにとどまらず(もちろん滅法面白いのだが)、文学性・拡張の高い作品であり、思い切って読んで良かったとしみじみ感じている。

“デューン・サーガ“は、フランク・ハーバート作のオリジナルだけでも、6作が出版された。ハヤカワの新訳版は、第二作「デューン 砂漠の救世主」まで刊行されている。来年は、この続編を楽しもう


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