見出し画像

3年ぶりの奥田英朗は熱量が凄い!〜新作「リバー」

奥田英朗の小説は、ミステリー、青春小説、喜劇的作品、家庭小説などなど、極めて多彩であり、その全てについてクオリティが高い。私は7割方フォローしていて、特に“ミステリー“的な小説は全て読んでいる。初期の「最悪」「邪魔」「オリンピックの身代金」あたりまでは、動きのある“走った“感じの小説だったが、時間の経過とともに落ち着きが出てくる。彼は1959年生まれで私の2つ上、私自身の変化とフィットしていることも、奥田英朗から離れられない理由かもしれない。

2019年の「罪の轍」から3年、書店に並んだ新刊「リバー」を早速読んだ。

この小説を読み進んでいる時、「餃子の王将」社長銃撃事件の容疑者が逮捕された。事件発生から9年が経過し、私はてっきりお宮入りかと思っていたが、警察の執念が逮捕までこぎつけた。報道された内容は状況証拠のみのようだが、この後、どのような展開になるのだろう。

本作の発端も、2009年に発生した殺人事件である。タイトルの「リバー」とは、栃木県と群馬県の県境を流れる渡良瀬川。川の両岸、それぞれの県で発生した2つの女性殺人はその内容が酷似していた。容疑者と目された人物はいたものの、両県警による合同捜査本部は検挙することができなかった。ちなみに、「王将」事件についても、京都・福岡の合同捜査本部が立ち上がっているが、縦割り組織ならではの

2009年から10年が経過する。10年前の事件に取り憑かれているのは警察だけではない。被害者の父親、元警察官。彼らの記憶を蘇らせ、そしてあざけ笑うかのごとく、10年の時を経て同様の殺人が発生する。10年前の容疑者は未だ野にいる、そして新たな容疑者。さらに、事件に絡みつく新聞記者。

ドラマは、じれったいほど静かに進んでいく。この辺りが、かつての奥田英朗との違いである。ただし、それは小説に深みのあるリアリティをもたらす。「王将」事案同様、状況証拠の積み重ねだけで逮捕・起訴するのは困難を極める。警察や10年前を引きずる人々の執念、彼らの熱量はそれを乗り越えることができるのだろうか。

小説の最後の方で警察の人間が放つ言葉を引用しようかと思ったが、自重した。もしかしたらネタバレになるかもしれないと考えたからだ。読書中にもしかしたら不安感にかられるかもしれない。この小説は終わるのだろうかと。心配ご無用、奥田英朗が書いているのだから。

魅力的な登場人物の中で、特異な一人を紹介しよう。篠田という40歳の犯罪心理学の准教授である。当初新聞社が、犯人のプロファイリングなどの目的で起用する。ストーリーの進行とともに、重要な役割となっていく。彼を主人公とするスピンオフ小説が出ると面白いのではないだろうか。

ミステリー・ベストの季節が迫ってきた。本作はどのような位置に置かれるだろう。まぁ、そんなこととは関係なく、奥田英朗は間違いない




本作に関するインタビュー記事に、奥田英朗が「リバー」のための音楽プレイリストを作成し掲載している。一曲目は、マイルス・デイビスの“Shhh/Peaceful“。

私はこの種の記事を、読む前に見ることはしないので、読み終わってからこのプレイリストを発見。マイルスの曲を聴きながら、読書中のBGMにしたかったと。Spotifyのものしか掲載されていないので、Apple Musicベースのプレイリスト作成しました。カルロス・ジョビンの“Brazil“は発見できず。

なお、記事自体は事前に読むことはおすすめしません。


この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?