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「あの頃、マリー・ローランサン」〜今は、アーティゾン美術館で

マリー・ローランサン生誕100周年の1983年、加藤和彦が同名のトラックを含む「あの頃、マリー・ローランサン」というアルバムを発表した。収録された楽曲は加藤和彦作曲、作詞はパートナーである安井かずみだった。

その頃だったと思う。私が、マリー・ローランサンという画家を知ったのは。加藤和彦からか、当時ガールフレンドであった、今の妻からか。画集を眺めたように覚えている。

“あの頃、マリー・ローランサン“の歌い始めはこうである。

🎵 マリー・ローランサンの 絵の前に立ち止まり 欲しがる君を 連れて帰ったり 日曜日は 二人だけで 過ごしたもの🎵

女性らしい絵、淡い色彩。加藤和彦が歌った世界のように、おしゃれで都会的な絵。大学生の私にとっては、分かりやすい素敵な作風だった。しかしながら、展覧会のような会場で、まとめて観る機会はなく、その後も深く知ろうとしなかった。

あれから40年以上の時が経ち、今アーティゾン美術館で「マリー・ローランサン〜時代をうつす眼」という展覧会が開催されている。

彼女がキュビスムの画家であり、ピカソ、ブラック、マティスらの同時代の巨匠の影響を受けたことが紹介され、彼らの作品も同時に展示されている。なるほど。

詩人のアポリネールらも含め、周囲の刺激を吸収し、彼女にしか描けない世界を創り上げた、そうした“時代をうつす眼“が感じられる展覧会である。

彼女の都会性は、部屋に飾ると生活が引き立つような絵画にとどまらず、文化的な日々に欠かせない劇場や本の世界にも広がっていく。舞台美術、本の挿画など、彼女がさまざまな分野において豊かさを発揮したことが分かる。本展ではデュマ・フィスの「椿姫」英語版の出版において、彼女が描いた装画なども観ることができる。

マリー・ローランサン美術館所蔵の「三人の若い女」なども嬉しいが、アーティゾン美術館が35点もの作品を所蔵していることも立派である。中でも、私が好きだったのは1923年の「二人の少女」。1925年(大正14年)に日本橋・三越呉服店で開かれた展覧会に出品された。つまり、リアルタイムで日本に紹介され、そのまま日本にとどまり、本展でもアーティゾン所蔵として展示されている。その頃も、あの頃も、そして今も日本人の琴線に触れる作品なのだろうと思う。

そう言えば、加藤和彦のアルバム、ギターに高中正義、ピアノ矢野顕子、ドラム高橋幸宏、オーケストレーションなどに坂本龍一などなど。20世紀初頭、ローランサンが、パリの洗濯船などで多くの才能と交わり合ったように、日本の才能が協働している。

本展は3月3日まで開催されています



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