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マレーネ・ディートリッヒの魅力を楽しもう〜ヒッチコックのヒッチコックの「舞台恐怖症」

久方ぶりにヒッチコック監督の「第3逃亡者」を観て、もう1作くらいと思いピックしたのが「舞台恐怖症」(1950年)。

「第3逃亡者」(1937年)の後、「バルカン超特急」(1938年)、「巌窟の野獣」(1939年)を監督し、ヒッチコックはアメリカに渡る。最初の作品が「レベッカ」(1940年)で、アカデミー作品賞を獲得するが監督賞は逃す。そして、ヒッチコックは、アカデミー監督賞を獲得することはなかった。

以後、ヒッチコックはイギリスとアメリカを行き来し、両国で映画を制作する。「舞台恐怖症」は前年の「山羊座のもとに」に続いてロンドンで作られた。

作品リストを見ると、次の「見知らぬ乗客」(1951年)からはアメリカで作られ、その後のほとんどの作品を私は見ているが(しかも素晴らしい作品目白押し)、「舞台恐怖症」と「山羊座のもとに」は自信を持って未見である。それには理由があって、一般的にこの二作はヒッチコックの作品の中では評価が低く、「まぁいいか」と放置していたのだ。

「舞台恐怖症」のオープニングはロンドンのセント・ポール寺院。ロンドン中心部を背景に、若い女性の乗る車が走る。助手席には男性が乗り警察から逃走していることが示唆される。何があったのか、男性の回想シーンとなり、シャーロットという女優が夫を殺害、助けを求めてきたという事件が提示される。現場は自宅、シャーロット役はマレーネ・ディートリッヒ。ドイツ出身の大女優、映画の中でも人気女優の役である。

逃亡しているのは男ジョナサン・クーパーは、シャーロットと関係があり、同時に車を運転する若い女性イブとも近しい関係で、逃亡を助けてもらっている。クーパーは、「シャーロットに頼まれ、彼女を助けようとしたが、殺人容疑をかけられた」と話す。

色々、突っ込みどころのあるドラマだが、ディートリッヒが魅力的である。演じる女優は孤高の存在で、彼女のイメージにぴったりである。映画の中では歌も披露され、ディートリッヒが親しくしていたというエディット・ピアフの代表曲「ばら色の人生〜La vie en rose」を歌う場面もある。

彼女に比べると、主演のイブ(ジェーン・ワイマン)の垢抜けないこと。。。。彼女は女優の卵で、映画の中では別人物を演じることにもなる。このあたりの構造も、本作のポイント。

「第3逃亡者」同様、ヒッチコック/トリュフォーの「定本 映画術」も見てみよう。

トリュフォーは語る、<あなたのキャリアの汚点にこそなれ、けっして名誉にならない作品ではないかと思うのです>。そこまで言うことないのでは、トリュフォーさん。でも、ヒッチコックも「そう、まったくそのとおりだ」と。

ここから、二人は「舞台恐怖症」の作品としての問題点を話すのだが、上述のディートリッヒの美しさに加え、クライマックスでイブの目だけに照明が当たる場面など面白いショットも沢山ある。

「映画術」で面白かったのは、イブ役のワイマンが<ラッシュを見るたびに、彼女は、マレーネ・ディートリッヒの美しさにくらべて自分が醜いといっては泣き出したものだ>とヒッチコックが話している箇所。よく分かる、ディートリッヒに対抗するのは無理だけど、もうちょっとなんとかならなかったのか。

なお、ジェーン・ライマンは1948年の映画「ジョニー・ベリンダ」でアカデミー主演女優賞を獲得している人。

同業の女優をしてそう思わせたディートリッヒを堪能できる、それだけでもこの映画は観る価値がある。

「映画術」ではイブの父親役のアリステア・シムに対し、トリュフォーは厳しい評価、ヒッチコックも同調するが、非常にイギリス人的で私は良かったと思うのですが。。。。。


そんな、“キャリアの汚点“となるヒッチコック映画を観るのも、また楽しいですよ


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