見出し画像

「水車小屋のネネ」に導かれて〜タフな女性を映す、ジョン・カサヴェテス監督「グロリア」

昨日は、津村記久子の「水車小屋のネネ」について書いた。

この本の主人公および周囲の人々にとって映画は重要な存在である。そして、その中でも大きな地位を占めているのが、ジョン・カサヴェテス監督「グロリア」(1980年)である。私は残念ながらリアルタイムでは観ていないが、後に導いてくれる雑誌があった。

雑誌受難の時代においても、頑張っている「SWITCH」、1985年の創刊時には、遂にこんな雑誌が日本にもできたのかと歓迎した。その「SWITCH」が1985年“Special Issue“として、“特集:映画監督ジョン・カサヴェテス“という一冊を出した。私は、この特集誌を買ってカサヴェテス、そして「グロリア」を始めとする作品群を知った。

カサヴェテスのキャリアを見て、最初に認識するのは、怖い怖い映画「ローズマリーの赤ちゃん」(1968年)。監督はロマン・ポランスキーだが、主演のミア・ファローの夫役を演じている。この頃から、インディーズでの映画制作を始め、「こわれゆく女」(1974年)でアカデミー監督賞候補となる。そして、「グロリア」でヴェネツィア映画祭金獅子賞を獲得する。

津村記久子著「水車小屋のネネ」の前半(“第二話 一九八一年“)、新天地での生活をスタートした理佐が、妹の律を連れて休日に映画館のある町に出かける。理佐は、<なんとなくやれている自分と律の生活が、実は綱渡りなのだと強く思えてきて、突然不安になる><だから律を連れて映画館に行って《グロリア》を観たくなったのかもしれない>(「水車小屋のネネ」より、以下同)。

私も観直したくなり、U~NEXTの配信に向かった。(Amazon Primeのレンタル等もあり)

「グロリア」は、「水車小屋のネネ」の世界とはまるで違う。冒頭、空中からニューヨークの夜景を写し、ヤンキースタジアム(旧)が大写しにされる。これが良い、「グロリア」の世界にいっきょに連れ込まれる。ヤンキースタジアムのあるのは、マンハッタンの北側ブロンクス、80年代当時は決して環境の良くなかった地域である。

映画はブロンクスで発生した、ギャング組織における裏切りと制裁。制裁から逃れる少年とそれを助けるグロリアの、これ以上タフとは言えないハードボイルドな戦いを描く。グロリアを演じるのは、カサヴェテスの妻でもあるジーナ・ローランズ。彼女のための映画と言ってもよい。

なぜ、理佐は「グロリア」を観たくなったのか。「水車小屋のネネ」との共通項はある。それは、強く生きようとする女性の姿であり、それに呼応する子供の成長である。「グロリア」は、素晴らしいスピードで、二人の関係性の発展描き出す。

律も「グロリア」を楽しんだようで、その中の台詞をネネに教える。<「おばあちゃんにキスは?」><「クイズごっこする?」>。後者は、“Do you want to play twenty questions?"である。そして、その後も「グロリア」は小説の中で、顔を出す。

1980年頃のニューヨークを観るのも興味深いが、グロリアの衣装にも注目して欲しい。デザインしたのは、当時人気絶頂のエマニュエル・ウンガロ。エレガントな服装が、グロリアのタフさを引き立てている。「ロッキー」のテーマで知られる、ビル・コンティの音楽も映画の世界観を盛り上げる。

「水車小屋のネネ」を読んだら、あるいは読まなくとも、映画「グロリア」に導かれることをお勧めする



この記事が参加している募集

おすすめ名作映画

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?